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相続人が判断能力を失って賃料不払を続けた場合

はじめに

土地を他人に貸すなどして長期にわたって取引をしていたところ,取引相手が認知症になってしまうということが高齢社会のリスクとしてたびたび起こっています。

土地を貸している場合に,地代が入金されていれば,借地人が認知症になったとしても,そのまま様子を見るという方も多いのではないでしょうか。

借地人が亡くなって相続が発生した後についても,地代が入金されていれば,そのまま様子を見るという事例も多いように思います。

本件は,土地を借りていた賃借人が亡くなって相続が発生した後,そのまま相続人である配偶者が地代を支払っていたものの,配偶者が認知症になってしまって,地代の支払が滞り,借地上の建物も空家のまま放置されていた,というものでした。

遺産分割

相続人が判断能力を失って賃料不払を続けた場合

解決内容

1 賃料不払いの場合の訴訟手続

賃貸人のXとしては,賃借人Y(賃借人の地位をAから相続)に対して,建物を収去して土地を明け渡すことや未払賃料等の請求をすることになりますが,このときに気を付けて頂きたいことは,賃料の不払があったからといって直ちに賃貸借契約を解除できるわけではないということです。

【最高裁判所昭和39年7月28日判決民集18巻6号1220頁】
最高裁判所は,延滞賃料が4ヶ月分のみであったことなどに照らせば,賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできないとして,解除権の行使を信義則に反し許されない旨判示しました。
この判例によって,
「賃貸借は当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから,賃料不払などの賃借人の債務不履行があった場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,民法612条の解除権は発生しないものと解するのが相当である」
といういわゆる「信頼関係破壊の法理」が賃料不払の場合にも妥当することが明らかとなりました。

賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除については多くの裁判例がありますが,一般論としては3~4ヶ月程度の賃料不払では賃貸借契約を解除することができないと言われています。

どの程度の期間の賃料不払であれば賃貸借契約を解除することができるのか,については個別の事案ごとの判断になりますが,専門家である弁護士に御相談頂ければと思います。

2 後見申立

本件では,賃借人Yが認知症になっているという問題もありました。

認知症等によって判断能力が低下した人は,契約を締結したり,財産を管理することが困難になります。本件でも,賃借人Yは施設に入所し続けていて,地代を支払うことなどができず,交渉することすらできない状況でした。

このような場合には,家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをし,選任された成年後見人との間で賃貸借契約や空家となっている自宅の処分等について交渉していくこととなります。

ところが,民法7条によると,後見開始の審判を申し立てることができるのは,下記の方々に限られます。

  • 本人(後見開始の審判を受ける者)
  • 配偶者
  • 四親等内の親族
  • 未成年後見人
  • 未成年後見監督人
  • 保佐人
  • 保佐監督人
  • 補助人
  • 補助監督人
  • 検察官
民法
(後見開始の審判)第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

この中には,本人の賃貸人など本人の契約の相手方は含まれません。

そこで,まずは親族に後見開始の審判を申し立ててもらうよう依頼することになりますが,費用も手間もかかりますので,実際にはなかなか依頼に応じてもらうことが困難です。本件でも,親族に後見開始の審判を申し立ててもらうよう依頼しましたが,結局,申し立ててもらうことはできませんでした。

3 特別代理人

そうすると,Xとしては,Yが認知症などになって判断能力が低下するとどうしようもなくなってお手上げの状況になるのでしょうか。

Xにはもう一つの選択肢として,訴訟を提起したうえで,Yについて裁判所から特別代理人を選任してもらうということができます。

特別代理人を選任してもらうためには訴訟を提起しなければいけませんので,交渉での解決のために特別代理人を選任してもらうことはできませんが,比較的低廉な費用で事件を解決に向けて進めることのできる使い勝手の良い制度です。

本件でも,XからYに対して,建物を収去して土地を明け渡すことや未払賃料等の請求をする内容の訴訟提起をしたうえで,Yのために裁判所から特別代理人を選任してもらいました。

民事訴訟法
(特別代理人)
第三十五条 法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。
事案の概要

本件のように,相続に関連して,認知症などによって交渉することができない方が出てくるということが度々あります。高齢化社会において,相続人も高齢化していますので,このような事例もどんどん増えてくるものと思われます。

かといって,手続を執らないまま放置すると,後々の世代に大きな負担を残しかねません。解決のための最善策としてはどのようなものがあるのか,お早めに専門家である弁護士に御相談下さい。

この記事を執筆した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。

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    遺言書には,全財産をYの姪であるXに遺贈することが記載されていました。

    被相続人は,高齢のために歩行が困難となり,特別養護老人ホームに入所しました。被相続人は自身で財産の管理をすることが難しくなったため,被相続人の亡夫とその先妻との間の子Yに対して,金銭の管理を委託しました。

    ところが,Yは,被相続人から,預貯金の通帳,カード,印鑑を預かったことをいいことに,
    被相続人の預貯金口座から約3800万円を出金して取得しました。

    被相続人が亡くなった後,Xは,Yから,遺言書が2通あるなどと告げられて,被相続人の遺産をXとYとで分ける提案を受けました。

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    ② 遺言執行者としてYを指定する。
    というものでした。
    Yは弁護士等の専門家ではありませんでした。
    Aが亡くなってYが遺言執行者に就任しましたので,YはA名義の通帳,印鑑及び不動産関係書類一式を受領しました。
    ところが,Yが毎日何度もタクシーに乗ってその交通費(5か月間で約70万円)をAの遺産から受領したり,書類を偽造するなど,Yの行動や経費の計上には不審な点が多々ありました。

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