よくある相談内容
相続により取得した不動産の処分方法を教えてほしい
相続の手続きは多くの人にとって煩雑であったり複雑であったりするものですが、相続財産に不動産がある場合には、司法書士に依頼するなどして必ず登記の名義変更の手続きが必要になるなど、いろいろな問題が生じます。相続により取得した不動産を処分するためには、相続人全員の合意形成など、多くのステップを踏む必要があります。
この記事では、戸籍の収集から始まり、遺産分割協議、不動産業者への依頼や法務局への登記申請、売買契約締結と最終的な決済の終了に至るまでの一連の流れを、初心者にも分かりやすく解説します。
また、売却が困難な土地については、新たに「相続土地国庫帰属制度」ができましたので、その概要についても説明していきたいと思います。不動産の相続に関する知識を深め、スムーズな手続・処分を実現しましょう。
1. 相続により取得した不動産を売却するまでの流れ
「相続した不動産を売却したいけど、何から始めればいいのか分からない」
そんな方に向けて、この記事では、売却までの流れを8つのステップに分けて説明します。
1)相続人の確認
相続人が第1順位(子)、第2順位(直系尊属)、第3順位(兄弟姉妹)のうちどれか、あるいは、相続人の数が少ないか多いかなど、いずれの場合であっても、まず最初に、故人(被相続人)の出生から死亡までの除籍謄本・改製原戸籍謄本などを収集し、必要に応じて、さらに法務局から法定相続情報図を取得して、相続人を確認しておくことが重要です。
2)遺言書の確認
次に、遺言書の有無が明確になっていない場合には、故人(被相続人)が遺言書を残していないかを確認する必要があります。遺言書があれば、その内容に従って不動産の所有権を移転することになるからです。
遺言書には主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類があります。
「公正証書遺言」があるかどうかは、全国の公証役場で検索することが可能です。
「自筆証書遺言」は自宅保管であることが多いと思いますが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用している場合には、全国の法務局において、「遺言書保管事実証明書」の交付を請求することによって、検索することが可能です。
次に、「自筆証書遺言」が見つかった場合には、開封する前に、必ず家庭裁判所に検認の申立てをする必要がありますのでご注意ください。
3)相続財産の確認
相続財産には、不動産や預貯金などのプラスの財産と、借金や債務などのマイナスの負債があり、名寄帳、通帳、残高証明書、保険証券、取引報告書、金銭消費貸借契約書、信用情報などを取得して、調査します。プラスの財産よりもマイナスの負債の方が多い場合には相続放棄等も検討しなければなりません。相続放棄等には、3か月の期間制限がありますので、御注意ください。
4)遺産分割協議(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合いを行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。遺産分割協議書には、誰がどの財産を取得するかを記載します。不動産は高額になることが多く、かつ、筆数や棟数が少ない場合には、相続人全員がそれぞれ不動産を取得するという解決ができないので、遺産分割協議においてトラブルが発生しやすい点に注意が必要です。協議が進行しない場合には、早めに弁護士に相談し、遺産分割調停へと進めるかどうかを検討しましょう。
4)法務局での相続登記(名義変更)
無事に遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書を作成することができたら、司法書士に依頼するなどして法務局に名義変更の登記申請を行います。登記申請は、登記申請書、相続関係図、遺産分割協議書などの書類を提出して行います。
2024年(令和6年)4月1日から相続登記の義務化がスタートしていますので、不動産を相続された方はご注意ください。
参考:法務省「不動産を相続した方へ 相続登記・遺産分割を進めましょう」
5)不動産業者への依頼
不動産を高く売却するためには、不動産の仲介業者に依頼するのが一般的です。仲介業者は、市場調査や買主探し、売買契約の締結など、売却に関する様々な業務をサポートしてくれます。
6)不動産の調査や査定
仲介業者に依頼すると、不動産の調査が行われます。調査では、建物の構造や設備・周辺環境など様々なポイントを確認し、これらの調査結果に基づいて、売り出しの手法や価格などを決めていきます。
7)売却(売買契約)
買主が見つかったら、条件を調整したうえで、売買契約を締結します。売買契約書には、売買代金や引渡し時期などを記載します。仲介業者に依頼している場合には、仲介業者が契約書作成もしてくれます。
売買契約締結時に、売買代金額の10%程度を手付金として受領することが一般的です。
8)代金決済と引渡し
売買契約の締結後、決済日には、買主から残代金が支払われ、買主には鍵や登記申請に必要な書類が渡されます。
これらの一連の手続きに不安がある方は、是非、弁護士などの専門家に御相談ください。不動産の売却は、一生に一度あるかどうかの大きな金額の取引ですので、信用できる専門家がいるかどうかがとても重要です。
2. 売るのが難しい土地の場合には「相続土地国庫帰属制度」を検討
不動産の売却が困難な場合、相続土地国庫帰属制度という選択肢があります。この制度では、相続によって得た土地を手放すことが可能になります。ただし、引き渡せる土地には要件があり、申請後には審査もありますので、疑問や不安がある場合には専門家へご相談ください。
相続土地国庫帰属制度を利用するには、遺言書や遺産分割協議書が必要です。また、図面や写真、申請者の印鑑登録証明書などの書類をそろえ、土地所在地を管轄する法務局に事前相談・申請を行います。土地が遠方の場合には、最寄りの法務局での事前相談も可能です。
土地を相続したものの、「遠くに住んでいて利用する予定がない」「周りに迷惑がかからないようにきちんと管理するのは経済的な負担が大きい」。そのような理由で相続した土地を手放したいとき、その土地を国に帰属させることができる「相続土地国庫帰属制度」を検討してみましょう。
相続土地国庫帰属制度は、相続した土地の有効活用が難しい場合に有用な選択肢ですが、条件や手続きの複雑さを理解し、慎重に検討することが重要です。