相続コラム
相続2 遺産分割調停の流れ
遺産分割調停は、遺産分割協議がうまくまとまらない場合に利用される裁判手続きです。この記事では、遺産分割調停の申し立て方や遺産分割調停の流れ、メリット、デメリット、注意点などをまとめました。
1.遺産分割調停とは
被相続人が亡くなった時は、被相続人の遺産をどのように分けるのかを決めなければなりません。
被相続人が有効な遺言書を残していれば、その遺言書に従って、遺産の相続や遺贈が行われますが、遺言書がない場合は、相続人同士で話し合って決める必要があります。
相続人同士が被相続人の遺産をどのように分けるか、話し合うことを遺産分割協議と言います。
しかし、この遺産分割協議がうまくまとまらないこともあります。
相続人がそれぞれ、自分の取り分を主張して譲らなかったり、そもそも話し合いをする気がなかったりする場合です。いわゆる相続争いに発展することもあります。
このような場合は、相続人同士だけで話し合っても結論が出ないため、裁判所の手続きを利用すべきです。
遺産分割調停は、家庭裁判所において調停委員を介して話し合うことで、遺産分割協議を成立させることを試みる手続きです。
2.遺産分割調停のメリット
遺産分割調停を利用した場合のメリットは2つあります。
2.1冷静に話し合いができる
遺産分割調停では、対立している相続人同士が顔を合わせて話し合うわけではなく、当事者が直接に話す相手は調停委員です。調停委員に対して、自分の言いたいことを主張しますし、相手の言い分も調停委員から聞かされます。
そのため、対立している相続人と言い争いになる事態は避けられます。
また、調停委員が争いの解決のためのアドバイスをしてくれることもあるので、直接話し合うよりも、よく考えて判断できます。
2.2公平な解決を図れる
調停委員は、相続人の一方の肩を持つことはなく、できる限り、公平で全員が納得できる解決策を探ろうとします。
相続人同士が対立する場面では、誰かが一方的な権利主張をしていることも多いわけですが、調停委員は、その権利主張が妥当なのかを中立的な立場から判断します。
中立的な立場から見てその主張が正しいと判断すれば、他の相続人にも受け入れるように助言しますし、逆の場合は、権利主張をする相続人に妥協するよう助言するわけです。
そのため、公平な解決を図りやすくなります。
3.遺産分割調停のデメリット
遺産分割調停を利用することのメリットも2つあります。
3.1数か月単位の時間がかかる
遺産分割調停は一日で終わるわけではありません。
初回は、遺産分割調停の流れの説明や相続人や遺産の確認といったようなことしかできません。そして、2回目の期日が約1カ月から2カ月後に開催されて、主張したいことをまともに主張できるようになるイメージです。
そこから数回にわたって、期日が開催されるため、遺産分割調停が終わるまでは、短くても半年、長い場合は、1年以上かかってしまうこともあります。
3.2自分の権利主張が通るとは限らない
遺産分割調停を申し立てる方には、自分の主張が正しいと考えて申立てを行う方もいらっしゃると思います。もちろん、調停委員もその主張が妥当だと判断すれば、その方向性で話をまとめてくれますが、中立的に見て、妥当ではないと判断されてしまうと、妥協するよう求められることもあります。
そのため、必ずしも、自分の主張が通るとは限らないことを理解して、遺産分割調停手続きを利用する必要があります。
4.遺産分割調停の申し立て方法
遺産分割調停は、家庭裁判所に申し立てます。相続人なら誰でも申立てを行うことができます。
遺産分割調停では、申立人と相手方という対立構造が想定されています。
そのため、遺産分割協議で、対立関係が生じている場合は、その対立関係を反映させて、申立人と相手方を設定することも考えられます。
申し立てを行う家庭裁判所は、「相手方のうちの一人の住所地を管轄する家庭裁判所」が原則です。
ただ、相続人同士で話し合い、合意で定める家庭裁判所に申し立てることもできます。
5.遺産分割調停の申し立てに必要な書類と費用
遺産分割調停の申し立てを行うに当たっては、様々な書類の作成と用意が必要です。
大阪家庭裁判所に提出する場合、作成するのは次の書類です。
- 遺産分割調停の申立書(当事者目録、遺産目録、相続関係図)
- 事情説明書
- 連絡メモ
また、家庭裁判所に被相続人、遺産、相続人に関する資料を提出する必要があります。具体的には次のような書類をそろえます。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票又は戸籍附票
- 遺産に関する資料(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券写し等)
その他、相続人の構成によっては必要な書類が追加されることがありますので、詳しくは、家庭裁判所に問い合わせてください。
申立て費用は、被相続人1人につき収入印紙1200円分が必要です。
また、連絡用の郵便切手も提出しなければなりません。
6.遺産分割調停申し立て後の流れ
遺産分割調停申し立て後の大まかな流れを見ていきましょう。
6.1初回の調停が行われる日時(調停期日)が決定する
遺産分割調停の申し立てを行っても即日、調停が行われるわけではありません。担当の裁判官や調停委員を決めると言った裁判所内部での調整や手続きが必要だからです。
初回の調停期日は、申立ての1カ月から2ヶ月後が目安です。
また、初回の調停期日までに、申立人以外の相続人は、答弁書や進行に関する照会回答書などを作成しておきます。
6.2初回の調停期日
調停期日は、月曜日から金曜日(祝日・年末年始を除く)の午前10時から午後5時までの間に設定されます。
つまり、平日の時間に行われるため、仕事を休んで出席すると言った対応が必要です。
平日休むことが難しい方は、弁護士などの代理人に依頼することも考えられます。
ちなみに、令和4年度に家庭裁判所が扱った遺産分割事件数は12,981件ですが、このうち、弁護士が関与している件数は、10,501件でした。遺産分割調停の場でも、弁護士が代理出席することは一般的になっています。
参考資料 令和4年 司法統計年報(家事編)
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/659/012659.pdf
初回の調停期日では、遺産分割調停の手続きの流れについての説明が行われた後で、調停室に入って、調停委員と話し合いを行います。
1回あたり20分程度で、申立人と相手方が交互に2回程度のやりとりを行います。
おおむね、1日当たり、2時間程度はかかると見込んでおきましょう。
6.3調停期日の繰り返し
調停期日は、1回で終わるわけではなく、1カ月から2カ月おきに何回も繰り返されます。長い場合は十回以上繰り返されるため、遺産分割調停全体では、半年から1年程度の時間がかかることを見越しておきましょう。
6.4最終調停期日
調停期日を繰り返した結果、相続人同士で妥協点が見つかり、話がまとまれば、裁判官が合意内容を「調停調書」としてまとめます。
相続人全員が裁判官の説明を聞いて、合意すれば、調停調書として確定します。
この調停調書は、裁判官が下す判決と同じ効力があるため、相続人は全員、調停調書の内容に従わなければなりません。
不動産登記手続きや銀行口座の名義変更手続きなども、調停調書を基に行います。
6.5合意が成立しない場合
調停調書の内容に合意しない相続人が一人でもいる場合は、遺産分割調停は不成立となります。
ただ、これで家庭裁判所での手続きが終わってしまうわけではなく、自動的に「遺産分割審判」が開始されます。
6.6遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、遺産分割調停の中で当事者が提出した様々な資料を基に、裁判官が判断して、法的に妥当な結論をまとめて、審判という形で結論を出す手続きです。
遺産分割調停では当事者の様々な事情をくみ取って、柔軟な解決を図ることもできますが、審判の場合は、法律や判例を基に、裁判官が当てはめて結論を出すことになります。
そのため、遺産分割審判の場合は、法律的には正しくても、当事者が納得できる形になるとは限らないことに留意しましょう。
7.遺産分割調停は必ず出席するのが基本
遺産分割調停期日は、平日に設定されるため、出席が難しい方もいらっしゃると思います。
しかし、調停期日に出席しない場合は、調停委員からは、自分の主張を放棄して、相手方の言い分を認めたものと判断されてしまうリスクがあります。
そのため、調停期日には必ず出席して、自分の言い分を主張しておくことが大切です。
最近では、直接、裁判所に出向かなくても、電話会議システムにより出席できる裁判所もあります。
また、自分の主張をうまく整理して伝えきれない方もいらっしゃると思います。そのような場合は、弁護士に代理で出席してもらうことも検討してください。