土曜・夜間も相談対応

TEL 050-3628-2026電話受付時間 平日 09:00~20:00
土日祝 09:00~20:00

相続分の譲渡ってなんですか?放棄との違いは?【弁護士解説】

「忙しすぎて相続の手続きに参加できない人がいる」「相続人が多すぎる」といった事情がある場合、関係者の数を減らすことで手続きがスムーズに進むことがあります。ここでは、関係者の数を減らす方法のなかでも、相続人が敵味方に分かれている場合に有効な方法ーー相続分の譲渡について解説します。

事例

私は3人兄弟の長男です。実父が亡くなり、相続が起きました。父は離婚と再婚を繰り返しており、今法律婚をしている配偶者は私の母ではない人です。さらに、私の母との間に生まれた子どものほかにも1人子どもがいるようです。私たち兄弟3人は「しっかり法定相続分は請求しよう」ということで意見が一致していますが、父親の再婚相手の態度が強硬で今後の相続に不安を感じています。また、末弟が海外勤務で連絡が取りにくい状況にあり、手続き面でも不安です。どうすればこの状況を打開できるでしょうか?

そもそも相続分の譲渡って?相続放棄とどう違う?

ー今回の事例ですが、相続人同士で意見対立がある上に、相続人の人数が多い、連絡が取りにくい人がいる、ということで、手続きするにしても話し合いをするにしても大変そうですね。

 

そうですね。今回の事例のようなケースでは、相続分の譲渡を活用されるのがよいでしょうね。調停の当事者が減らせるので、手続きがスムーズに進むと思います。

 

ー相続分の譲渡…ですか? 期限内に決められた手続きをすれば「相続しないことができる」と聞いたことがありますが、それとはまた別の制度なんですか?

 

「相続しないことができる」という話は、相続放棄のことですね。遺産分割調停の当事者を減らす方法としては、相続放棄、相続分の放棄、相続分の譲渡の3つがあるんですが、それぞれ法律的な効果が違います。どの方法にもメリット、デメリットがありますので、各自の事情も考えつつ、どの方法を選ぶかを決めなければなりません。

 

ー相続放棄に相続分の放棄、相続分の譲渡ですか……。似たような単語がたくさん出てきて、少し頭がクラクラしてきました。

 

それでは、順番に見ていきましょうか。

 

相続放棄とは

相続放棄は、相続自体を放棄してしまう、つまり「そもそも相続をしないこと」をいいます。相続放棄をすると、「初めから相続人ではなかった」という扱いになります。ただ、相続放棄をする場合、原則相続が起きてから3ヶ月の期間内に、家庭裁判所での手続きが必要です。「相続放棄をしようかな」と思ったタイミングによっては、手続きが間に合わない可能性もあります。

 

ー相続放棄がおすすめなケースは、どんな場合でしょうか。

 

故人に借金がある場合ですね。相続をすると、資産も借金も同時に受け継ぐことになりますので。プラスの財産があまりなさそう、借金があるかもしれない、という場合は、放棄してしまったほうがメリットが大きいでしょう。

 

相続分の放棄とは

相続分の放棄は、相続自体はするものの、他の相続人と話し合った上で「プラスの財産の取り分をゼロにすること」をいいます。

 

ー遺産分割協議の場で、「俺は遺産はいらないよ」と他の相続人に言う……みたいなイメージでしょうか。

 

そうです。

 

ー相続放棄とはどう違うんですか?

 

まず、相続分の放棄は当事者の話し合いだけでできるので、相続放棄より手続きが簡単です。期間制限もありません。

 

ー相続放棄より手軽にできますね……!

 

ただ、デメリットもあります。プラスの財産の取り分をゼロにするだけなので、借金や税金の支払いといった負の遺産は受け継がれてしまうからです。

 

ー相続分の放棄と相続放棄って、文字を見ているだけだと混同してしまいそうですが、中身は全然違うんですね。

 

相続分の譲渡とは

相続分の譲渡とは、他の人に自分の相続分を譲渡することをいいます。譲渡先は、他の相続人でも、第三者でも大丈夫です。また、有償・無償を問いませんので、相続分を譲渡する代わりに対価を受け取るということも可能です。

 

ー相続分を譲渡するっていうことは、プラスの財産だけを譲るイメージでしょうか。それとも債務も一緒に引き取ってもらえるんですか?

 

プラスの財産だけを譲ることになります。相続分の放棄と同様、債務は残ってしまいます。ただ、相続分の譲渡には、自分があげたい人に取り分を譲ってあげられるという特徴があるんですよ。これは相続放棄や相続分の放棄にはないメリットです。

 

数はパワーだ!?「相続分の譲渡」の活用で交渉を優位に

ー自分があげたい人に取り分を譲ってあげられるのはいいですね。

 

そこが、まさに今回のような事例で、相続分の譲渡が使える理由なんですよ。相続でモメているケースだと、相続人の中に自分の敵と味方がいるわけですよね。なかには全員の意見が対立しているというパターンもあるかもしれませんが。

 

ーたしかに、そうですね。母親の再婚相手VS実子チームとか、長男チームVSその他の兄弟姉妹チームとか、不謹慎なたとえかもしれませんが、スポーツのチーム戦っぽい感じになるケースは多々ありそうです。

 

こういう争いは、基本的に味方が多い方が有利ですし、遺産の取り分つまり相続分が多い方が有利になります。というのも、「数はパワーだ」じゃないですけど、相続分が多い側は、不動産の分け方でも主導権を握ることができるなど、交渉を有利に進めやすくなるんです。

相続人が多い場合、ひとりひとりの相続分が小さくなりますよね。たとえば、父親の再婚相手と、子ども4人とでモメている場合を考えてみましょう。この場合、後妻さんの相続分は1/2になります。ところが、子ども1人あたりの相続分は1/8しかありません。でも、子ども4人が協力すれば相続分の合計は1/2となり、後妻さんと同等になります。そうなると、後妻さんとも互角に渡り合えるわけです。

 

ーその感覚は、なんとなくわかります。笑

 

相続分が多い方が、主導権を取りやすくなりますからね。不動産の分け方でいうと、自分の相続分が多ければ多いほど不動産を獲得できる可能性が高くなる。他の人に代償金を支払って現物をもらってもいいし、不動産を売ってお金をもらってもいい、といったように選択肢が増えます。これが、相続分が少ないと、売るかどうかを決めることすらできず、お金をもらうしか選択肢がなくなってしまいます。

 

したがって、相続トラブルで相続人が多いケースでは、自分サイドに相続分をできるだけ多く集めるというのが基本的な戦略になります。ここで、相続分の譲渡を使う実益が出てくるんです。

 

ーなるほど、自分に相続分を譲ってもらえばいいんですね…!

 

そういうことです。関係者の人数を減らしながら、相続分を自分サイドに集められるのが相続分の譲渡のメリットなんです。関係者が多いと、弁護士としても動きにくい部分があるんですよね。というのも、複数の依頼者から依頼を受けるって、利益相反の問題が起きやすいんですよ。途中で依頼者同士の意見が対立したような場合、辞任しなければならなくなりますし。しかし、相続分の譲渡であれば、関係者の人数自体が減りますので、こうした利益相反の問題も起きにくくなります。関係者の人数だけを減らすだけなら相続放棄や相続分の放棄でもいいんですが、放棄だと残った同順位の人の相続分がまんべんなく増えてしまいます。そうなると、話し合いの主導権を握りたい側にとってはあまりメリットがない。

 

ー協力関係にある人が複数いるのであれば、相続分の譲渡の活用はアリですね。譲渡した相続分の対価をもらえるのであれば、譲渡する側も納得しやすそうです。

 

しかも、相続分を譲渡してしまえば、あとの手続きを他の人に任せられますから。それでお金がもらえるのであれば、相続分を譲渡する側にもそれなりにメリットがある話になってくると思います。

 

弁護士からひとこと

相続人が多い、連絡が取りにくい人がいる、といったケースでは、相続の手続きや話し合いを進めるだけでも大変です。それだけに、相続放棄などで離脱する、相続分の譲渡で相続分をまとめるなど、それぞれの抱える事情に応じた対策を考えることがスムーズな解決を目指す上でのポイントになってきます。もし不安なことがありましたら、気軽にご相談いただければと思います。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。