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母親の再婚相手と相続でモメている【解決事例紹介】

血がつながっていない家族間では、相続時にトラブルが起きやすい傾向があります。
そこで、今回はこれまでの解決事例の中から、母親の再婚相手と子どもが対立してトラブルになったケースを紹介します。

解決事例紹介

私は二人兄弟の長男です。
母親が再婚した後に亡くなりました。
母親が購入したマンションには現在再婚相手が居座っています。
私と実の弟との関係は良好で、今回の相続でも連携できそうです。
しかし、弟には家庭の事情があり、なかなか連絡を取ることができません。
母の遺産としては母名義のマンションがいちばん価値がありますが、現在そこには母親の再婚相手が居座っています。
預貯金などの流動資産はありません。
また、預金から不審な出金があり、再婚相手から「お前が使ったんだろう」と難癖をつけられています。

なるべく多く遺産をよこせ!?母親の再婚相手との間で相続トラブルに

ー解決事例のご紹介ありがとうございます。
モメそうなポイントが複数あるように感じられる事例ですけども、守秘義務に反しない範囲で事件についてさらに詳しく伺えればと思います。

今回の解決事例は、①遺産の中にマンション(不動産)がある、②連絡の取れない相続人がいる、③亡くなった母親の再婚相手(義理の父親)から使い込みを疑われているという3点が問題になったケースでした。
ただ、このケースが特別にモメているという印象はありませんね。
というのも、弁護士のところに話が来るケースって、だいたいこれくらいモメているのが普通なんですよ。

ー複雑な気持ちになる話ですね。
だからこそ、本格的にモメる前に早めに専門家に相談することが大事ということでしょうか。

そういうことですね。
特に、今回のように、子どもが大きくなってから親が再婚をして、となると、再婚相手と実子の間の人間関係がこじれやすいですから。
相続でモメやすいケースであることは間違いないので、早めに相談に来ていただけるといいかなと思います。

マイホームの相続と配偶者居住権

不動産は換価分割で合意できればスムーズに話が進む

ー今回の事例では、まず遺産の中にマンションがあって、いくらか預貯金があるということですが、

以前の記事でもご紹介しましたが、不動産の絡む相続では、大きく分けて、不動産を売ってお金を分ける(換価分割)、誰かが代償金を支払って現物でもらうのか(代償分割)、という2つの選択肢が考えられます。
今回のように不動産の価値の大きさに対して、預貯金のような流動資産が少ないパターンだと、不動産を売るというのが現実的な選択肢になるでしょうね。
ここで、「不動産が欲しい」と主張する人がいるとモメるわけですが、幸いなことに今回のケースは「不動産を売る」という意見に異論を唱える人はいませんでした。

ー再婚相手の方も、マイホームが欲しいという主張はしなかったんですね。

ええ。
しかも、被相続人の方が団体信用生命保険に入った上で住宅ローンを組まれていたので、住宅ローンの残債もなかったんです。
大きな負債がなくて、価値の高い不動産だけがある。
しかも不動産は売ることで合意できていると。
その意味では、やりやすいケースでしたね。
全部現金化してきちんと分ける、しかも相続人全員が相当額の遺産がもらえるという話になると、遺産分割もやりやすいんですよね。

ーなるほど。

ただ、たとえば再婚相手の方がマンションに居座っていて、「このまま住みたい」と主張しているとなるとやっかいですね。
今の法律を前提にすると、配偶者居住権の問題が出てきてしまいますので。

今後トラブルが増える?配偶者居住権とは

配偶者居住権は、長期の配偶者居住権が成立してしまうと、その人が生きている間は不動産を処分できなくなってしまいます。

ー配偶者が居座っているから、他の相続人が自分で不動産を使うことはできない、かといって売ることもできないということですね。
不動産の所有権をもらっても、ほぼうまみがないというか。

そういう話になりますね。
裏を返せば、被相続人の配偶者の方にとっては、住み慣れた自宅から出ていかなくてもいい、しかも不動産そのものをもらうよりもらえる現金が増える可能性もあるわけで、ものすごく使い勝手の良い制度ではあります。
特に、最近ではステップファミリーも増えていますので、今後は配偶者居住権の絡む相続事件も増えてくるのではないでしょうか。

連絡の取れない相続人との付き合い方

ー今回の解決事例では、「連絡が取れない相続人(弟)がいる」という点も問題になっていたんですよね。
連絡が取れないシチュエーションということになると、依頼者とは疎遠な関係だったんでしょうか?

いえ、今回のケースに限ってはそんなことはまったくなかったんです。
しかも兄弟間で意見が割れているわけでもありませんでした。
むしろ構図としては実子チーム対再婚相手になっていましたので、弟さんは依頼者の味方ともいえるポジションにいたわけです。
ただ、家庭の事情があって、相続の手続きに参加するのが難しい、なかなか連絡も取れない、という状況にありました。

ーとはいえ、協議や調停といった相続の手続きって全員参加がルールですよね。
こういう場合ってどうすればいいんですか?

調停をすれば家庭裁判所が関係者を呼び出してくれますので、とりあえず調停を申し立ててしまうという方法もあります。
さすがに家庭裁判所の呼び出しを無視するという方はほとんどいないので……。
ただ、調停には、申立人対相手方という構図になるという特徴があるんです。
つまり、依頼者側が調停を申し立てた時点で、弟さんが自動的に相手方にな側に回ってしまう。

ー本当は、弟さんって依頼者さんの味方なのに、調停を申し立てるといわば敵方になっちゃうということですね。

そうなんですよ。
それは依頼者としても弟さんとしても本意ではないわけです。
ただ、連絡がなかなか取れないとなると、こちらとしても動けなくなってしまいますので。

ー結局どうなったんですか?

相続分譲渡を兄弟間でしてもらいました。
そうなると、依頼者の法定相続分は1/2になりますので、再婚相手と同等になります。
この状態で調停に持ち込みました。
こちらの相続分が多ければ多いほど交渉では有利になりますからね。
このあたりは弁護士としての腕の見せ所という感じでしょうか。
相続分譲渡の場合、譲渡した側は対価を受け取れます。
弟さんとしても損はしない取引ということもあって、話をうまくまとめることができました。

他の相続人に使い込みを疑われてしまったら

ー今回の事例だと、再婚相手が「依頼者側が使い込みをした」と主張しているんですよね。
こうした場合はどうすればいいでしょうか?

使い込み、いわゆる使途不明金の問題ですね。
もし調停の場で相手方に言いがかりをつけられてしまった場合は、毅然とした態度を取ることが重要だと思います。
というのも、使途不明金の問題って調停では解決できないことが多くくて、最終的に解決するためには地方裁判所に持ち込んで裁判するしかないことがほとんどんです。
ですので、調停の場で相手にいろいろと言われたら、「どうぞ裁判してください」と返すのがベストな対応といえます。
相手自身、裁判で勝てない、自分の主張が通らないとわかっているからこそ、「話し合いでどうにか自分に有利な方向に持っていきたい」と思っている可能性もありますので。

ーこのあたりは駆け引きの要素もあるんですね。

はい。
今回の事件も、こちらが毅然と対応した結果、相手のペースに巻き込まれずに済みました。

弁護士からひとこと

相続をめぐってトラブルが起きそうな場合、最初の対応が非常に重要になります。
今回の事件でも、依頼者様が弁護士に早めに相談に来られたことで話をスムーズに進めることができました。
相続トラブルの背景にはこれまでの人間関係の問題がひそんでいることも多く、当事者の話し合いだけで解決することは困難なケースも多いです。
また、使い込みの問題のように、初動を間違えることで不利益を被るタイプのトラブルもあります。
紛争の早期解決につなげるためにも、トラブルが起きそうになった時点で早めにご相談いただければと思います。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。