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相続でもらうはずの株式が妹名義に!事業承継と株式の相続【弁護士解説】

事業承継のため、後継者となる子どもに相続や生前贈与により株式を集中させるケースは非常によく見られます。
しかし、同族企業である非公開会社の場合、株主が全員親族ということもあり、相続時に株式をめぐるトラブルが勃発することも……。
そこで今回は弁護士に、株式をめぐる相続トラブルが発生した場合の対応策について伺いました。
 

事例

私は40代の男性です。
父親は事業を営んでおり、私は小さい頃から父親の後継者として育てられました。
ところが、数年前に経営方針の違いから父親と仲違いして会社を辞めさせられてしまい、現在は、妹が専務取締役として、会社の事業に携わっています。
兄妹は私と妹の2人だけです。
先日父親が亡くなり、相続が発生しました。
ここでご相談したいのが、会社の株式のことです。
生前父親からは、「会社の株式は6割が父親名義、2割が私、残りの2割が妹の名義になっている、と聞いていました。
ところが、ふたを開けたら、父親の持っていたはずの6割のうち3割が妹のものになっていたのです。
父親から聞いていた話とは全然違います。
妹が勝手に取ったに違いないと思いますので、なんとか本来受け取るはずだった会社の株式を取り戻したいです。
 

Q:相談者は株式を手に入れることができるのか?

A:争う方法はあるかどうかは、ケースバイケースです。
株主名簿や確定申告書の調査などにより現状・これまでの経緯を把握した上で、適切な対処法を考える必要があります。
例えば、妹さんが、父親に無断で株式の名義を移転させていたことが明らかになれば、遺産確認や株主権確認の訴訟を経て、妹の名義となっている3割についても相続の対象とすることが可能です。
 

事業承継が絡む相続は難しい

ー今回のケースでは、父親が遺した会社の株式をめぐって争いが起きているようですが……。
 
親の事業に関わっている子どもが複数人いて、株式をめぐって親の死後にモメるケースというのは、よくあります。
結局、会社の株式を持っている人が、会社の主導権を握るということになりますからね。
株式の大半を誰が持つのかによって、会社の今後が決まってくるわけです。
 
ーなるほど。
遺言があればまだしも、そうでない場合は大変なことになりそうですね。
 
そうですね。
そもそも事業をやっておられる方の相続は複雑になりがちです。
本人が相続税対策で生前贈与や名義預金などいろいろな対策をされていたり、会社名義の不動産もあったりしますので。
会社と個人の名義が入り組んでいる不動産、会社債務の連帯保証など事業をやられている方に特徴的な問題もあって、財産関係が複雑になりやすい傾向があります。
そのせいで、「そもそも何が遺産なのか」「遺産の価値はどれくらいなのか」をめぐる問題が起きやすいように思います。
その中でも特に問題になりやすいのが、株式の扱いです。
 
ーといいますと……。
 
そもそも、株式の価値を正確に把握することは簡単ではないんです。
 

株式の価値をどうやって計算するのか?

ー株式の価値……上場企業なら市場で取引きされている株価がありますが、そうでない非公開会社の場合はどうすればいいんでしょう。
 
決算書などをもとに、会計士や税理士に相談する必要がありますね。
ただ、難しいのは、法人税や相続税の生前対策の一環などで、収益・資産が実際よりも低く帳簿に記載されていることが多いことです。
株式の価値が高いと、その分遺産の総額が増えて相続税に影響してしまいますので。
そうなると、特定の子どもに事業承継させたい、株式を集中させたいという場合は都合が悪い。
相続税だけを考えると、株式の価値は低いのが理想的です。
実際、そうなっているケースはよくあります。
 
ーそうなると、遺産の大半が株式だったような場合には、たとえば遺留分を請求する側としては非常に困りますね。
生前贈与なり、遺言なりで遺された株式にほとんど金銭的な価値がないということになってしまいますから。
 
そうですね。
ですから、その場合は会社の決算書などを出してもらって、相手の主張する株式の評価額が正しいのかを調べる必要があるわけです。
株式の評価方法には様々な手法がありますが、主なものとして「純資産価額方式」、「類似業種比準方式」、「配当還元方式」があります。
「純資産価額方式」は、その時点での会社のトータルの資産額から、評価額を求める方法。です。
通常は、様々な手法両方のやり方をミックスして株式の評価額を出して、「適正な価格は○○円だ」と主張することになります。
また、会社が不動産を持っているような場合、帳簿に記されている不動産の評価額(簿価)と時価にはズレがありますので、不動産の簿価を時価評価額に置き換えただけで、株式の評価額が跳ね上がることも多々あります。
 

非公開会社の株式に特有の問題はまだある

ただ、このケースの相談者さんの場合はお金の問題というより、株式そのものがほしいわけですよね。
ですから、株式の評価額ももちろん大事なのですが、「現在の会社の株主は誰なのか」「株式の贈与などが行われていたのか」といった点についても調べた上で対策を考えなければなりません。
ここでも、非公開会社は結構難しい問題があるんですよ。
というのも、株式が公開されていないので、誰が株主かを公に証明してくれる機関がないんですね。
 
ーそうなのですね。
一応、会社の方では「誰が自社の株を持っているのか」を証明するための書類として、株主名簿というものを作っていると聞いたことがあるのですが……。
会社側が株主名簿で株主を管理していれば、特に問題はないのでは?
 
それが、そう話は簡単ではないんですよ。
もちろん法律上は、株式会社を作るのであれば「必ず株主名簿を作らないといけない」というルールになっています。
ただ、実際同族会社の場合、「家族以外の人が株主になっていないからいいや」ということで、株主名簿を作っていないケースもあったりするんですよね……。
 
ー株主名簿がない!? それだと誰が何株持っているのか手がかりがまったくないですね。
こういった場合、どうすればいいんでしょう?
 
株主名簿がなくても、確定申告書を入手することができれば、株主についてある程度の情報を得ることが可能です。
会社の税理士などから確定申告書を入手できるかどうかも非常に重要です。
あとは、相手方が「株式を贈与された」と主張しているのであれば、会社の税理士などが贈与契約書の写しを保管している可能性もあるかもしれません。
贈与契約書の筆跡を検討することも非常に重要です。
 

弁護士からひとこと

日本の中小企業の大半は、株式を上場していない非公開会社です。
誰が株主かが外から見てもわからない、株式の評価額の計算が難しいといった事情から、こうした会社経営者の相続では株式をめぐるトラブルがよく起きます。
こうした株式の問題が相続で持ち上がった場合、株主名簿や会計書類の提出を会社に求めたり、生前贈与の実態を調査したりとさまざまな手続きが必要になります。
会社の資産の中に不動産が含まれる場合、株式の評価額を調べるために不動産の鑑定が必要になるケースもあるかもしれません。
株式の相続をめぐっては複雑な問題がいろいろあり、特に相続人間で争いが起きている場合は自力での解決は難しいケースがほとんどです。
場合によっては訴訟が数多くなることも想定されるため、費用対効果も考えながら今後の対策を考える必要があります。
資料がどれくらい手元にそろっているのかによっても、何ができるかが変わってきます。
いろいろと事情を伺った上で今後の見通しについてお伝えしますので、まずは弁護士にご相談いただければと思います。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。