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共有不動産の相続でトラブルになったら

相続財産の一部に共有持分の不動産が含まれる場合、相続も複雑になりがちです。
不動産の共有はあまり望ましいものではないといわれていますが、共有解消を目指すとしても、売却して代金を配分する、共有者のうちの誰かが全体を取得して他の共有者に代償金を払うといった複数の解決方法があります。
相続人の間で意見がまとまらないという問題と共有者の間で意見がまとまらないという問題が同時並行で進行することになります。
特に収益物件は、売却するか賃貸を継続するかの判断が難しいことや、受領した賃料の分配が揉めやすく、不動産を誰がもらうかをめぐってトラブルになりやすい傾向があります。
ここでは共有不動産の相続トラブルについて、事例を使いながら解説します。
 

事例

私は現在、大阪で妻夫、子どもと一緒に暮らしています。
このたび不動産事業を営んできた父親が亡くなり、相続が発生しました。
相続人は母と姉弟、妹、私の4人で、遺言はありません。
 
相続に当たっての問題は、名義預金や不動産業を営んできた会社の株式などいろいろありますが、一番やっかいなのが不動産です。
マンション、アパートなど、たくさんの不動産がありますが、なかには土地の半分が父親、半分が私弟、その上に建っている建物が会社名義になっているものもあります。
 
父親はもともと私弟を後継者と考えていましたが、途中で父親と私との折り合いが悪くなったため、結局会社は長女である姉私が継ぐことになりました。
姉には不動産業を継続してもらいつつ、私の法定相続分を確保するためには、どうすればいいですか?
 

Q:共有名義のものを含め不動産を取得したいという相談者の希望を叶えるためには?

A:相続については、姉が不動産を取得して姉から代償金を受け取るか、相続対象の不動産を会社に売却して、売却代金の分配を受けるという方法が考えられます。
 
もっとも、依頼者自身弟が土地の共有持分を持っているものもあるとのことなので、不動産の問題を本当に解決するためには共有名義の不動産をどうするかについても合わせて考えなければなりません。
 
共有についても、相続の場面と同様に、姉が不動産を取得して姉から代償金を受け取るか、共有持分を会社に売却して、売却代金の分配を受けるという方法が考えられます。
 

共有不動産の相続は複雑になりやすい

不動産の共有はのちのちトラブルになることを避けにくいといわれています。
実際、相続の場面でも遺産の中に共有名義の不動産が含まれていると、相続がかなり複雑になってしまいます。
 
不動産は預貯金のようにスッキリ分けるのが難しい財産です。
1つの不動産が共有になっており、しかも、共有持分について、相続人が複数いるような場合、誰が不動産をもらうのか、不動産の管理や処分をどうするのか、といった面倒な問題が生じてきます。
 

収益物件絡みのトラブルは特に多い

共有名義の不動産が生まれる原因にはいろいろありますが、一番多いのは収益物件のケースではないかと思います。
 
自分名義の土地にマンションやアパートを建てる、あるいはマンション一棟を買って人に貸す、といったパターンですね。
相続税対策として、不動産を購入される方が多いように感じます。
 
もちろん自宅を買う場合に子どもや配偶者と名義を半々にしておくというケースもないわけではありません。
ただ、こうした行為には特段のメリットがないことが多く、弁護士個人の印象としては少ないのかなと感じます。
 
むしろ収益物件で個人名義と会社名義が混在していたり、建物の建築時や生前贈与などで不動産の名義が一部子どもになっていたり、といった形で名義が複雑に入り組んでいるケースが多いように思います。
 

なぜトラブルになるのか

不動産の共有の中でも収益不動産が問題になりやすいのは、例えば、賃料を親族間で分け合って生活してきていたので、生活のために賃料を確保したい、というような展開になりやすいからです。
自宅の共有だと「売却してお金を法定相続分で分けよう」という形ですっきり決着できるケースも多いのですが、収益物件の場合はそうはいきません。
毎月の家賃収入があることから、「自分だって家賃収入がほしい」「相続時に多少お金を多めにもらえたとしても、アイツが収益物件をもらうことに対して納得できない」という話になりやすいのです。
 
特に、相続人の数に対して収益不動産が十分にない、不動産の名義が入り組んでいるといったケースは、話がこじれやすいといえます。
ちなみに弁護士のところに来るご相談はそういった複雑なケースが大半です。
 

トラブル解決に至るまでの基本的な考え方

共有の不動産が関係する相続トラブルの解決方法としては、次の3つが考えられます。
 

換価分割

1つ目は不動産を売ってしまって、その代金を相続人及び共有者間で分ける換価分割です。
不動産が手元に残らない代わり、それぞれの相続分にしたがってきれいに遺産を分けることができるのがメリットです。
 
本件のように一族の不動産事業を会社組織化しているような場合には、その会社に個人名義になっている不動産や各自の持ち分を売却する方法も考えられます。
 
遺産に共有持分が含まれる場合には、相続人全員の意見が一致することと共有者全員の意見が一致しなければ、換価が困難であるという点に注意が必要です。
 
ちなみに、裁判所で話し合っても話がまとまらない場合、最終的に換価分割でしか決着できないことも多く、不動産共有や「相続による共有」を解消するという局面では、換価が最も確実な解消方法であるとさえ言えます。
 

代償分割

2つ目は誰かが不動産をもらう代わりに、他の相続人や他の共有者に代償金を支払う代償分割です。
相続人や共有者のひとりに十分な資金力があったり、相続財産中に十分な現金・預貯金があったりする場合にはこうした方法を取ることも可能になります。
 
本件のケースであれば、不動産事業を承継する姉に不動産を取得させて、依頼者の方が代償金の支払を受けるということになるでしょう。
 

現物分割

3つ目は、不動産をそのまま分ける現物分割です。
しかし、土地の分筆は線引きが難しく、分筆したことによって土地の価格が割安になってしまうといったデメリットがあることから、よほど広大な土地でなければ、実務上はあまり見かけません。
 

現実的な解決方法とは?

不動産を取得したい人に代償金を支払えるだけの財産がなければ、代償分割の方法を取ることはできません。
最近では代償金を支払うためのローンもあるようですが、返済した場合の収支予定や担保をどうするかなどの問題があり、誰でも簡単に利用できるものでもないというのが実状のようです。
 
また、代償金の分割払いという方法もありますが、長期の分割や多数回の分割ということでは話合いがまとまらない可能性が高い点に注意が必要です。
 
支払原資などの点から代償分割が難しい場合は換価分割にせざるを得ない、というのが現実的な解決策になると思われます。
 
本件のケースのような場合では、会社の代表者である長女自身あるいは会社が、他の相続人や他の共有者の持ち分を買い取るというのが第一選択肢になるでしょう。
土地の名義の一部を持っている依頼者との話し合いが難航する場合は、共有分割訴訟を提起される可能性も考慮する必要があります。
 
共有状態というのは紛争予防という面からも望ましいものではないので、共有状態の解消という決着に向けて、様々な選択肢を一つずつ検討して動くことになります。
 

生前対策でやっておくべきこと

ここまで共有不動産をめぐって相続トラブルが起きた後の話をしてきましたが、そもそものトラブル防止という意味では生前対策も重要になります。
 
というのも、不動産の名義が入り組む原因の1つは、生前対策の一環として行われる生前贈与にあるからです。
たとえば家業を継いでくれる予定の長男に不動産の一部を生前贈与する、ということは、現実に行われているかと思います。
ただ、難しいのは、その子どもが必ずしも親の思い通りに動いてくれるとは限らないことです。
さまざまな事情から最終的に長男が跡継ぎにならず、実際に家業を継いだのは長男以外の子どもだったという話はよくあります。
 
特に事業をやっている方であれば、遺言を書く、生前贈与をする、信託をする、といった生前対策について、すでに考えている方もいらっしゃると思います。
 
ただ、家庭の事情や財産の状況というものは、刻一刻と変わりうるものです。
生前贈与をした当時と相続発生時の状況がまったく違う、という可能性も十分ありえます。
 
よかれと思ってやった生前対策がトラブルの火種になることもありますので、生前対策を考える場合には、状況の変化に応じてこまめに弁護士にご相談いただければと思います。
 

弁護士からひとこと

名義が入り組んだ複雑な共有不動産は、相続の場面では比較的よく見られるものです。
こうした共有不動産の相続では、誰が不動産をもらうのか、すでに相続人や第三者の個人名義になっている持分をどうするのかなど、いくつもの難しい問題が発生します。
 
共有不動産の相続には複数の解決方法が考えられ、必ずしも正解が一つということではありません。
どの解決方法がベストなのかは、個別各家庭の事情によって変わってくるものです。問題が起こりそうだなと思われたら、早めにご相談いただければと思います。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。