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認知症や寝たきりに備える~ベストな生前対策の形とは

将来、認知症などが原因で自由に動けなくなるリスクは誰にでもあるものです。
しかし、元気なうちは、「自分が病気になった際に備えて準備をしておこう」という気にならない人もいるのではないでしょうか。
多くの場合、紛争の原因は準備不足にありますので、弁護士としては、本人が元気なうちからもしもの際の財産管理について考えておかなければならないと思っています。
判断能力も気力も充実している間に対策しておくことで、死後の無用な紛争を避けることができるからです。
 

事例

私は3人兄弟の長女です。
父親はすでに亡くなっており、現在母は地方で一人暮らしをしています。
まだ70代前半ということもあり母はまだまだ元気なのですが、実の父親(私にとっては母方の祖父)が認知症を患ったこともあり、近い将来、自分も認知症を発症するのではないかと不安に思っているようです。
母の住んでいる市の隣町には弟夫婦が住んでいるのですが、弟は昔からいい加減な性格で、金銭的にもだらしないところがあるため、母がもし認知症になった場合に世話を任せることはできないと考えています。
最後まで何不自由のない、穏やかな老後を送ってほしいというのが私の願いなのですが、母が自分で財産管理などができなくなった場合に備えて、どんな提案をすればよいのでしょうか。
 

Q:相談者はどのような方法を親にすすめるべきか?

A:親御さんがまだ元気なのであれば、柔軟なスキームを組める信託がファーストチョイスです。
 

将来からだが衰えた後も安心して過ごすために

人が亡くなる場合、急死するというケースはそこまで多くはありません。
徐々に心身が弱っていった結果、亡くなる前の数年間は病院に入院したり誰かの介護を受けたりしながら生活することになる可能性が少なからずあります。
認知症で判断能力が衰えたり、持病で寝たきりになってしまったりした場合、預貯金の引き出しなどをはじめとする財産の管理も自力ではできなくなってしまいます。
そこで、問題となるのが、「老後の財産管理をどうするのか」ということです。
家族や他人に財産管理を任せる場合、使い込みなどを始めとするトラブルが付き物です。
こうした金銭トラブルを防ぐためには、適切な人に、適切な方法で自分の財産の管理を任せる必要があります。
安心して老後を過ごすためにも、元気なうちから自分に何かあった場合の財産の管理方法について考えておかなければなりません。
 

知っておきたい財産管理のやり方いろいろ

誰かに財産をきちんと管理してもらうための方法はいくつかあります。
具体的な方法としては、次のようなものが考えられます。
 

財産管理契約

財産管理契約は、その名の通り、「財産を管理してもらう」という契約です。
どの財産をどう管理してもらうかは契約で自由に決められるため、本人の希望を反映しやすいというメリットがあります。
また、契約の相手としては、特に親族間でトラブルが予想されるケースも含めて、弁護士が最も適任と思われます。
財産管理を頼める身内がいない、という方にもおすすめの方法です。
 

信託

信託契約は、委託者が信頼できる誰か(受託者)に自分の財産の名義を移し、その人に管理・活用してもらうというものです。
財産の管理・活用方法には委託者の意思が反映されますし、また財産から得られる利益を受け取る人(受益者)も自由に設定できます。
受益者は委託者と同一にしてもよいですし、委託者と別の人を受益者にしても構いません。
とはいえ、老後の財産管理であれば、委託者本人が受益者となり、家族を受託者にして財産の管理を任せるパターンが多いのではと思います。
信託契約のメリットは、その自由度の高さです。
自分の死後は孫を受益者にできるなど、本人やご家族の希望を汲み取るような形でのスキーム設計ができます。
信託のスキーム設計にはいろいろなパターンが考えられます。
もし信託の利用を検討されている場合は一度弁護士にご相談いただければと思います。
 

成年後見

成年後見は、本人が認知症などで判断能力が低下した場合に、家庭裁判所に選んでもらった後見人に代わりに財産の管理などを行ってもらうというものです。
契約の締結などをはじめとする法律上の行為を行うためには一定以上の判断能力が必要とされています。
したがって本人の判断能力がすでに低下している場合、信託契約や財産管理契約といった方法を選ぶことはできません。
そのため、本人に代わって財産の管理をするためには、成年後見を使うしかないということになります。
 

任意後見契約

任意後見契約は、自分が将来判断能力が衰えたときに備えて、後見人をあらかじめ決めておくというものです。
成年後見とは違い、自分の好きな人を後見人にできるというメリットがあります。
 

成年後見の利用は低調!?その理由とは

ここまで財産管理のための制度をいろいろと紹介してきましたが、特に何も対策をしていないまま判断能力が低下していったような場合には、成年後見しか選択肢がなくなってしまいます。
「後見でもいいのでは」と思われる方もいるかもしれませんが、成年後見は事務手続きが煩雑、財産の管理が硬直化しやすいという側面があるため、必ずしも本人や家族にとってはベストな方法とはいえない可能性があります。
というのも、成年後見は本人を保護することに重きを置いているため、自宅の処分について家庭裁判所の許可を得なければならないなどの厳格なルールがあるからです。
相続税対策で、生前贈与したい、収益不動産を建て替えたいなど、財産を柔軟に管理・活用したい場合は、信託など他の方法が向いているといえるでしょう。
 

老後の財産管理は遺言とセットで

老後の財産管理について考える上で、忘れてはいけないことがあります。
それは必ず遺言とセットにしておくということです。
後見はもちろんのこと、信託でも本人の死後の問題の全てをカバーするものではありません。
本人の死後に財産をどうするのかという問題について、相続のトラブルを予防するという意味では、財産管理と遺言はセットで考えるのが望ましいのです。
遺言では、残った財産をどう配分するのかなど、さまざまな事項を決めておくことができます。
判断能力が低下すると遺言が作れなくなりますので、元気なうちに遺言を書いておかなければなりません。
 

弁護士からひとこと

「うちにはまだ早い」と考える方もいるかもしれませんが、元気なうちに財産管理と遺言について考えておくことで、いざというときの選択肢を増やすことができます。
特に、信託については柔軟なスキーム設計が可能であることから、今後はファーストチョイスになっていくだろうと思っています。
実際にも家族信託の事例が増えてきています。
もちろん、事情によっては信託以外の方法が適切というケースもあります。
財産の管理や相続関係の手続き・準備については法的知識が求められるため、弁護士のアドバイスが役立つ場面が多々あると思われます。
家族関係や財産の状況、本人の希望なども考慮して、いろいろとご提案できますので、お気軽にご相談いただけましたら幸いです。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。