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両親亡き後に実家をめぐって兄弟姉妹とバトルに… このまま実家に住み続けることはできるのか

両親と実家で同居している兄弟がいる場合、両親の死後に実家の処分をめぐって他の兄弟とトラブルになることがあります。
 
実家以外にめぼしい財産がないケースでは、実家を売ってお金を作らないと、平等な相続が行なえない可能性があるからです。
 

事例

私(A)は三人兄弟の長兄であり、弟Bと妹Cがいます。
私は独身で、母親と2人で実家で暮らしています。
なお、父親は既に亡くなっています。
 
この間母親が亡くなり、相続について兄弟と話し合う必要が生じました。
相続財産は実家であるマンションの1室(3000万円相当)と預貯金300万円です。
 
私はそのままマンションに住み続けたいと考えています。
Bは「自分は現金がもらえればいいので、兄貴はそのまま実家に住めよ」と言っていますが、Cは「法定相続分がほしい」といっているようです。
私の希望は通るでしょうか。
 
ちなみに遺言はありません。
 

Q:実家のマンションを確保することは可能か?

A:妹であるCさんが拒否したら難しいといえます。
 

交渉次第で円満解決できる可能性もある

このケースでは、相談者さんのお母様が遺言を残しておられなかったということで、法定相続分で遺産を分けることになるのが原則です。
 
マンション・現金・預貯金を合わせた遺産の総額が3300万円ですから、相談者さんの取り分は3300万円×1/3=1100万円となります。
 
マンションの評価額は3000万円ですから、その時点で相談者さんの法定相続分を大きく上回っています。
 
このような状況で相談者さんがマンションに住み続ける方法としては、まず他の兄弟と話し合って、マンションを相談者さんが相続できるようにすることが考えられます。
 
遺産分割協議で相続人全員が納得できるのであれば、法定相続分と違った分け方をしても問題ないからです。
 
しかし、妹Cさんが法定相続分をほしいというのであれば、相談者さんがマンションを確保するのは難しくなるといえるでしょう。
 
妹さんの相続分に相当するお金を誰かが支払うということでなければ、マンションを売却し、そのお金を兄弟で分けるしかありません。
場合によっては、そのお金を金融機関からの借入で賄うということも検討します。
 
もっとも、兄弟で話し合いができる状況であれば、他の方法もないわけではありません。
たとえば、妹さんに次のような提案をすることが考えられます。
 

  • ・「将来売るときにお金を分ける」との約束で相談者さんへのマンションの相続を認めてもらう
  • ・マンションを相談者さんと他の兄弟との共有にする

 
もしそれで妹さんが納得してくれるのであれば、マンションを確保しながら円満に相続を終えられるかもしれません。
 
将来手続きが複雑になるおそれがあるのであまりおすすめはできませんが、相談者さんが「どうしても実家に住み続けたい」というのであれば、上記の手段も検討する価値があるかもしれません。
 

調停、審判に至った場合は売却することになる

それでも妹さんが「嫌だ」と言った場合は、マンションを売ってお金に変えるしかありません。
 
マンションの価格が相談者さんの法定相続分を大きく上回っている以上、相談者さんの希望を叶えるのは難しいからです。
 
話し合いがまとまらず、調停、審判に至った場合も妹さんの言い分が通り、マンションを売るしかなくなる可能性が非常に高くなります。
 
妹さんが納得してくれない限り、マンションの売却を避けるのは難しいといえるでしょう。
 
実家に住み続けたい兄弟とその他の兄弟との対立は、結局「実家を売るか、売らないか」という問題に行き着きます。
 
手元に十分な現金・預貯金がなく、実家の価格が法定相続分を上回っているようなケースでは実家を確保するのが難しくなります。
 
最悪の場合、審判の結果「競売によって売却する」ということになると、売却価格が市場価格より安くなってしまいます。
 
つまり、妹さんとしても強く出すぎると損はするわけで、そこで妥協できる余地が生まれるかもしれませんが、競売覚悟での強気の態度は、「大損しかねない状況でどっちが最後まで折れずに頑張れるか」というチキンレースになりかねないのも事実です。
相談者さんにとっても、かなりリスクが高い方法であるとはいえるでしょう。
 

売らない方向で話がまとまった場合にやるべきこと

もちろん妹さんが納得して、実家を売らない方向で話がまとまる可能性もあるでしょう。
 
ただ、その場合は通常の相続よりも相続後の手続きが面倒になる可能性がある点に注意が必要です。
 
実家を売らない方向で話がまとまった場合、兄弟で実家を共有するか、相談者さんが単独で相続するかになるかと思います。
 
ただ、いずれの場合も相談者さんとしては遺言を書くなどして、自分の死後の処理をキチンとしておくべきです。
 
相談者さんが独身で子どももいない、将来結婚する可能性もないのであれば、相談者さんの相続人は妹さん・弟さんになるので意外にシンプルにいく可能性もありますが、そうならないケースも当然考えられます。
 
後のトラブルを防止するためにも、せめて遺言は作りましょう。
 

法改正の影響にも注意が必要

なお、相続に伴う不動産の共有については、管理や処分をめぐって面倒な問題が起きやすいため、弁護士としてはあまりおすすめしません。
 
一方、現状維持だとそれほど面倒というわけでもなく、必ず遺産分割をしないといけないというルールもこれまではなかったので、遺産分割も相続登記もせずに故人名義のまま放置するという方法が取られることも少なくありませんでした。
 
しかし、このたびの法改正の結果、遺産分割は原則10年以内に行わなければならない、というルールが追加され、これまでのように厄介な財産については遺産分割をせずにしばらく放置する…という方法が取れなくなる可能性があります。
 
新しいルールのもとでは、原則として相続発生時から10年が経過すると法定相続分での遺産分割をせざるを得なくなります。
 
このルールが適用された後では、「何年も放置しておいた後で誰かに名義を移し、売って代償金で処理する」ということもできなくなる可能性があります。
場合によっては、不利益を被る相続人が出てきます。
 
また、不動産の相続については、相続登記の問題もあります。
法改正の結果、相続登記が義務化され、不動産の相続を知ったときから3年以内に相続登記を行わなければならなくなります。
 
遺産分割に関するルールは2023年4月1日、相続登記の義務化は2024年4月1日からのスタートですので、今後も法改正には注意が必要です。
 

不動産の相続の相談は弁護士に

不動産の相続では「不動産を売ってお金にするかどうか」などをめぐって、トラブルが起きがちです。
 
特に今後は法律の改正の影響もあり、スピーディーに解決を行わないと柔軟な解決が難しくなる可能性もあります。
 
不動産の相続をめぐって、もし不安なこと、気になっていることがあれば、一度お話を伺えればと思います。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。