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誰も欲しくない土地、法定相続分を主張する兄弟… 遺産分割協議がまとまらない場合の対処法

故人が遺言を作らないまま亡くなった場合、その相続は遺産分割の手続によることになります。
相続人全員による話し合い(遺産分割協議)で全員が納得できれば、法定相続分とは異なった割合で相続することも可能です。
 
しかし、つねに遺産分割協議がスムーズにいくとは限りません。
誰か1人に相続させたいと考えている相続人とそうでない相続人がいる場合、遺産の中に誰も欲しがらないような土地が含まれている場合などでは、相続人同士の意見が対立し、遺産分割協議が進まなくなってしまうことがあります。
 

事例

私(A)は三人兄弟の長男であり、弟B・Cがいます。
両親は地方で2人暮らしをしていましたが、先日父が遺言を書かずに亡くなりました。
 
私とBは「母親も生活があるだろうから、父親の遺産は母親に全部あげたい」と思っていますが、弟Cが遺産の一部を欲しがっています。
弟Cの取り分を減らし、母親にすべての遺産をあげることはできますか。
 
また、父親は農家で、山林を所有していました。
しかし、私たち兄弟は全員都会に出ていることもあり、みんな陰で「山林はいらない」と言っています。
母親が亡くなった後は山林の押し付け合いになりそうで不安なのですが、将来相続が起きた場合に何かよい解決方法はありますか。
 

Q:遺産の一部が欲しいと主張する人の取り分を減らすことはできる?

A:相続人には法定相続分が認められていますので、法的に取り分を減らすのは難しいです。
 

法定相続分を減らす方法はない

まず、遺産の一部がほしいというCさんの言い分が通るかについて考えてみましょう。
 
遺言がない場合、一般的には、相続人が誰かを調査した上で遺産分割協議をして、話し合いの結果をもとに遺産分割協議書を作成するという手続きが必要になります。
 
遺産分割協議ではこう分けなければならないというルールはなく、相続人全員が話し合いで納得できればどんな分け方をしてもかまいません。
特定の人だけに相続させるということも可能です。
 
が、法定相続分の主張をする人がいる場合に、その人の取り分を減らす方法はありません。
 
遺産分割協議が決裂した場合は遺産分割調停、調停も決裂(不成立)だった場合には遺産分割審判という流れになりますが、その場においてもCさんが法定相続分の主張をするのであれば、それが通ってしまいます。
 
「母親に遺産を全部あげたい」という相談者さんの希望を叶えるのは法的に難しいといえるでしょう。
 
このケースでは子どもの1人あたりの法定相続分は1/2×1/3=1/6となります。
 
したがって、Cさんには法定相続分にあたる遺産の1/6を取得させざるをえないということになります。
財産状況によっては、不動産を売らなくてはいけないかもしれません。
 

本ケースにおける現実的な解決策

一方、相続分の譲渡ということで、相談者さん、Bさんの相続分を母親にあげるということも可能です。
 
相談者さん、Bさんが各自の相続分を母親に譲渡し、母親とCさんとで遺産分割協議をすることによって、比較的スムーズに解決へと向かう可能性が高まります。
 

Q:誰も欲しくない土地がある場合の相続の手続きってどうなるんですか?

A:これまでは何も手続きしないまま放置されることが多かったのですが、法律の改正によって状況が変わる可能性があります。
 

山林の処分に困っている方は多い

遺産の中に山林があるということで、相談者さんはお母様が亡くなった後の相続についても心配されているようです。
 
実は、「処分に困っている土地があり、そのせいで相続の手続きがうまく進まない……」というケースは珍しくありません。
法律事務所に相談に来られる相続関係のご相談でも、10件に1件くらいの割合でこうしたケースがあるようです。
 
農地などの場合はまだましですが、本当に厄介なのは山林のような利用価値のない土地です。
 
こうした土地の場合であっても、引き取ってくれる人が現れれば特に問題はないのですが、誰も引き取り手がいないとなるともう打つ手がありません。
そのため、やむなく登記も含めて放置する……というパターンが一般的でした。
 
しかし、民法や不動産登記法などの法改正によって、これらの状況が大きく変わる可能性があります。
 
まず、相続登記が義務化されたため、相続登記をしないまま放置しておくという選択肢はなくなりました。
 
一方、「引き取ってくれる人がいない土地については、国が引き取る」という手続きが始まることも決まっています。
 
ですから、相談者さんのお父様が持っていた山林も、法律で定める条件を満たせるのであれば国に引き取ってもらえる可能性があります。
 

新しい制度にはまだ詳細が不明なところもある

もっとも、この制度については2022年9月時点では詳細が決まっていないところも多く、今後どうなるかは制度の運用次第なのではないかというのが正直な感想です。
 
たとえば、この制度では国に対して管理料を10年分納める必要がありますが、管理料の水準については現時点では決まっていません。
 
また、なんでもかんでも国が引き取ってくれるというわけではないという注意点も存在します。
 
具体的には、次の条件に当てはまるような土地は引き取ってもらえません。
 

  • ・建物や通常の管理又は処分を阻害する工作物等がある土地
  • ・土壌汚染や埋設物がある土地
  • ・崖がある土地
  • ・権利関係に争いがある土地
  • ・担保権等が設定されている土地
  • ・通路など他人によって使用される土地など

 
山林のような土地は境界がはっきりしていないことも多く、それが「権利関係に争いがある土地」にあたるのかどうか現時点では判断がつきません。
 
このような土地を実際に引き取ってもらえるかは、実際に制度が始まるまでわからないところがあります。
 
とはいえ、処分に困っている土地があるというケースは非常によくあるものです。
 
特に山林のような不動産については現状では放置するか、共有で登記するかしか解決方法がないため、弁護士としては「相談を受けても積極的な解決策がない」という歯がゆさがありました。
 
「国に帰属させる」という道ができるということで、この制度には非常に期待感を持っています。
 
うまく制度の活用が進めば、これまで以上に円滑に遺産協議を進めることができるようになります。
 
今後どのような形で制度が運用されることになるのか注目です。
 

遺産分割協議の相談は弁護士に

遺言がない場合、遺産分割協議で分け方を決めなければなりません。
 
遺産分割協議でみんなが納得できればどんな分け方をしても大丈夫ですが、話し合いがうまくまとまるとは限りません。
 
たとえば、法定相続分を主張する相続人がいる場合、その人の取り分を減らすことは難しく、たとえ家庭裁判所の調停や審判になったとしても、「法定相続分がほしい」という人の主張が通ることになります。
 
「自分は長男なので全部遺産をもらう権利がある」「特定の子どもだけに相続させたい」といった希望は通らないのです。
 
さらに、山林のように誰も欲しくない財産がある場合は、その処理をめぐって意見が対立し、話し合いがまとまりにくくなることも考えられます。
 
こうした遺産分割協議をめぐるトラブルについては、早期解決が重要です。
弁護士が介入することで話し合いがスムーズに進み始めることもありますので、一度ご相談いただければと思います。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。