相続コラム
障害のある子どもや兄弟姉妹がいる…相続はどうすればいい?
障害のある子どもを抱えている家庭の場合、相続の場面で問題が起きる可能性があります。
相続手続き自体が進まなくなるリスクもありますので、親が元気なうちに対策を考えておくことが大切です。
障害のある子どもがいる場合は相続手続きで問題が起きることがある
知能障害や精神障害などの事情により判断能力に問題がある子どもがいる場合、親の相続手続きなどで支障が生じる可能性があります。
相続や契約といった法律行為を行うためには、民法上「行為能力」が必要とされているからです。
行為能力とは、単独で確定的に有効な法律行為をする能力をいいます。
簡単にいうと、自分が何をしているのかだったり、契約の内容だったり、それらの意味がきちんと理解できるだけの能力ということです。
そのため、判断能力が低下している人は行為能力が認められず、契約や相続といった法律行為をひとりで行うことが制限されてしまいます。
その結果、行為能力に問題がある相続人がいると相続で何が起きるか。
相続手続それ自体がストップしてしまうことになるのです。
遺言がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がありますが、行為能力に問題がある人が参加者の中にいるとそのままの状態では手続きを進められません。
特に本人が成人しているような場合では、家庭裁判所に後見を申し立てて保護者となる人(後見人)を決め、その保護者に本人の代わりに手続きを進めてもらう必要があります。
遺産分割協議以外にも、登記の移転などの場面で同じような問題が起きることも多いです。
後見とは?
判断能力が低下している場合、本人が自分の財産をきちんと管理できない可能性があります。
また、行為能力に問題があると、相続の手続きや施設への入所に伴う契約といった重要なライフイベントにも対応することができません。
そのため、「自分に何かあったら、この子はどうなるのだろう……」と、障害のある子どもを持つご家庭では子どもの将来を心配されている親御さんもいると思います。
こうした場合に備えて、民法が用意しているのが「成年後見」という制度です。
成年後見は家庭裁判所が後見人を選び、それ以降は後見人が本人の利益のために契約や相続といった法律行為、さらには財産管理を行います。
もしかしたら、すでに親が子どもの後見人になっているという方もいらっしゃるかもしれませんね。
後見人をつけるメリットは、家庭裁判所の監督が入るので不正が起きにくいことです。
家庭裁判所はもともと後見人に財産管理状況を報告させることができるほか、必要があると判断したときには「後見監督人」といって、後見人が適切に事務処理をしているかチェックする人をつけることもできます。
本人の財産が勝手に使われないように、また本人に不利益がないように、さまざまな手当がされているのです。
ところが、その厳格さが逆に後見のデメリットにもなっています。
裁判所の監督が入るので、お金が硬直的にしか動かせなくなるからです。
さらに、一度後見を付けると、本人が判断能力を回復しない限りは死ぬまでつけることにならざるを得ません。
本人のためにまとまった金額のお金を動かしたい、不動産を処分して整理しておきたいと考える方もいると思いますが、後見が始まっていると手続きが煩雑になります。
このように後見は実務上障害のある子どもを持つ親や家族にとっては非常に使いにくい制度となっており、使わざるをえないから使うというケースがほとんどです。
その「使わざるを得ないケース」の一例が、まさに遺産分割の場面です。
まず遺産分割協議は冒頭で紹介したように相続人の全員参加が必須であり、行為能力がない人がいる場合は後見人がいないと手続きが進まなくなります。
「遺産分割協議書に本人の署名・押印があればいいじゃないか」と考える人もいるかもしれませんが、後見人をつけないままで手続きを進めて作った遺産分割協議書は無効です。
また、遺産分割協議の問題とは別に、相続登記の手続や預貯金の名義書換の場面でも問題が起きます。
特に近年、こうした財産の移転手続きでは本人確認が厳格に行われる傾向があるからです。
このとき意思疎通が難しいレベルの障害を持つ子どもが相続人になっていると、司法書士の先生方が本人確認ができず手続きがストップしてしまいます。
障害があっても、日常生活では後見人がいなくてもキャッシュカードさえあればそこまでお金のことで困ることはないかもしれません。
しかし、相続の場面では後見が必要になります。
特に、遺言がない場合は問題が大きくなりやすく、相続が起きてやむなく後見を……というパターンが非常に多いです。
障害を持っている子どもがいると生活に追われて、そういったことに気が回らない場合が多いかもしれません。
しかし、自分が死んだあとで残される子どもが困らないように、親としては元気なうちに一度対策を考える必要があるといえるでしょう。
障害がある子どもがいる場合の望ましい生前対策とは?
障害がある子どもがいる家庭こそ、生前対策が重要です。
親が元気なうちであれば選択肢も増え、各家庭の事情に合わせた柔軟な対応が可能になります。
相続について
まず親の側がやっておくべき対策として、まず遺言を作成することがあげられます。
遺言で遺言執行者を指定しておいて、名義移転などの手続きを任せるとスムーズに相続を進めやすくなるからです。
一般的に、相続の手続きについては預貯金は比較的楽です。
一方、不動産や株は大変です。
場合によっては不動産や株は親が生きているうちに処分して現金に変えておくというのもひとつの手段でしょう。
特に、自宅で子どもの面倒をみている場合は自宅をどうするかも問題になります。
親が動けるうちに、自宅を処分して施設に入れるなどの選択肢も考えておくべきかもしれません。
相続は財産の内容によって必要な手続きが変わってきます。
どの財産についてどんな手続きがいるのかは一般の人ではわからないことも多いと思いますので、一度専門家に相談されることをおすすめします。
なお、障害の子どものほかに兄弟がいる場合、相続では遺留分の問題が出てきます。
特に障害のある子どもに遺言で多く遺産を残したいと考えている場合は、日頃からきちんと家族で話し合っておくことも必要だと思います。
なお、逆に障害のある子ども以外の子どもに多く遺産を残してあげたいと考えている場合も、遺留分の問題はあります。
後見人をつけた場合、後見人としては本人の利益のために遺留分を請求せざるを得ないからです。
遺言を書く場合は、遺留分の問題にも留意しておくべきでしょう。
障害ある子どものその後の生活について
自分が亡くなった後の子どもの生活について心配されている親御さんもいるかもしれません。
特に面倒を見てくれる家族がいなければ、後見をつけて財産管理などは後見人に任せ、障害の程度によっては施設に入る、というのが一般的によく見られるケースです。
一方、親側が生前にできる対策としては先ほど紹介した遺言、さらに信託があります。
信託は信頼できる親族・家族に財産名義を移して管理してもらい、そこから得られる収益だけを本人に渡すというものです。
たとえば信託銀行に不動産を信託して管理してもらい、その結果得られた賃料を障害のある子どもにあげる、といった使い方が考えられます。
早めに専門家に相談を
障害のある子どもを抱えた家庭では、相続の場面でもいろいろ難しい問題が起きる可能性があります。
「自分が亡くなったあと、子どもの経済状態が心配」という親御さんも多いと思いますが、相続が起きてからだと、「後見を申立てして遺産分割する」という方法しかとれない可能性が高いです。
親が元気なうちであれば遺言や信託など他の解決策が見つかる可能性もあります。
お子様の幸せな未来のためにも、一度ご相談いただければと思います。