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特別受益が原因で相続トラブルに!?問題になりやすいケースと判断のポイント

特別受益と相続分

特別受益とは、被相続人から遺贈や一定の条件を満たす生前贈与(生計の資本としての贈与、結婚・養子縁組に際して受け取った贈与)等を受け取った相続人がいた場合に、その相続人が受け取った特別の利益のことをいいます。
 
特別受益を受けた相続人がいた場合、そのまま遺産を分けてしまうと、かえって不平等になってしまいます。
そこで、実際の相続分を計算する際には、特別利益の分を調整して相続分を決めることになります。
 
具体的には、対象となる生前贈与分を相続財産にカウントした上で相続分を計算し、さらに遺贈をもらった人がいる場合はその人の相続分から遺贈分を差し引きます。
 
これらの手続きにより特別受益にあたる贈与、遺贈をもらった相続人はその分相続分が減り、それ以外の相続人は若干相続分が増えることになって、相続人間の不公平が緩和されます。
 
このように、特別受益は相続人間の公平を図るために設計された制度です。
 
しかし、実際の相続では特別受益の問題が持ち上がった場合、必ずしも手続きがスムーズに進んでくれるとは限りません。
 
特別受益を主張する相続人とその他の相続人との間で利害が対立するからです。
家族関係の問題と絡んで、相続トラブルに発展してしまうことも考えられます。
 

遺留分と特別受益

先ほどは相続分の計算を念頭に置いて、特別受益の説明をしてきました。
 
が、実は特別受益は、相続分だけでなく遺留分との関係でも問題になります。
 
ただし、相続分の計算と遺留分の計算とでは問題になる生前贈与の範囲に違いがあります。
 
遺留分の計算では、相続開始前の10年間に行った生前贈与のみが特別受益として扱われます。
 
一方、相続分の計算では、このような期間制限はありません。
 

特別受益が問題になるケース

特別受益にあたるのは遺贈、そして一定の条件を満たす生前贈与です。
 
具体的には、生計の資本として行われた贈与、結婚・養子縁組に際して行われた贈与が該当します。
 
実際の法律相談では、「1人だけ高額な学費を出してもらった兄弟がいる」「親が特定の兄弟にだけ自宅の建築資金を出してあげた」といった形で相談に来られる方が多い印象です。
特に、自宅の建築資金をめぐるトラブルは弊所の場合1番多いと感じます。
 
また相続税対策との関係で、特別受益の問題が起きてしまうケースもありますね。
 
贈与税と相続税の税率には差があるため、財産の額によっては「贈与税を払っても生前贈与した方が税金が安い」ということが起こり得ます。
 
110万円の非課税枠内で少しずつ行う暦年贈与であれば、金額が少ない分特別受益の問題には比較的になりにくいのですが、「相続税よりは税金が安いから」という理由で多額の贈与をしてしまうと、後で問題になりやすいです。
 
なお、「親所有の不動産でタダで何年も住んでいたから、その浮いた家賃分が特別受益にあたる」という主張をされる方もいらっしゃいますが、親と同居していた場合はもとより、別居の場合も特別受益にあたるかどうかは微妙なところかと思います。
 
家族には互いに扶養義務を負っているため、「自活して裕福な暮らしをしていたのにも関わらず、家賃をまったく払わなかった」などの特別な事情がないかぎり難しいのではないでしょうか。
 

特別受益にあたるかどうかの判断基準

特別受益にあたりそうに見える生前贈与があったとしても、それだけでは実際に特別受益だと判断できるかは分かりません。
 
項目で特別受益かどうかが決まるものではないので、「この名目の贈与ならすべて特別受益」と言い切るのは難しいところがあります。
 
というのも、特別受益の判断には各家庭の経済状態や遺産の総額が大きく影響してくるからです。
 
特別受益は遺産の前渡しになるかどうかという基準で判断するため、実際の判断では、遺産の総額ともらった財産の価額のバランスが重要になります。
 
ある程度まとまった金額の贈与・資産が問題になりやすいのは確かですが、贈与の金額が少なくても、もともとの財産が少なければ、相続分との関係でバランスが崩れます。
たとえば、「相続財産が500万なのに、生前贈与で100万円もらった人がいる」となると、相続財産に対して多すぎる贈与があった、といえるのではないでしょうか。
 
一方、たとえ1000万の贈与があったとしても、何十億円も持っているようなお金持ちであれば、特別受益とは言いにくいでしょう。
 
つまり、遺産の総額に対して金額が多すぎ、相続の取り分に影響を与えるような贈与が特別受益になるということです。
 
実は生命保険についても同じことが言えます。
生命保険は受取人の財産ですので、相続財産にはカウントされませんし、原則特別受益にも当たりません。
しかし、他の相続人の相続分とのバランスが崩れるものだと例外的に「あたる」という判断をされる可能性があります。
 

特別受益の主張を認めてもらうためには?

遺贈については遺言でしか贈与ができないため、「特別受益があった・なかった」の問題は生じません。
 
問題は生前贈与の扱いです。
 
特別受益にあたる生前贈与の存在を認めてもらうためには、証拠が必要になります。
「もらった」「あげたはずだ」という記憶があったとしても、それが証拠によって証明できなければ裁判官を説得するのは難しいからです。
 
逆に、きちんとした証拠があれば相手方も反論できず、話し合いの段階でトラブルを解決できる可能性も出てきます。
 
たとえば、本人による覚書があり、かつ実際に多額のお金が動いていることが取引履歴からわかっている場合、お金をあげたという事実については相手方も争えません。
 
このような状況であれば、実際の話し合いも「贈与があったのだろう」ということを前提に進めることができます。
 
はっきりとした証拠がある場合は、比較的問題がこじれにくいといえるでしょう。
 
もっとも実務上は相続税対策の関係で、表には出さない贈与もしばしばあります。
このタイプの贈与は存在を証明するのが難しく、故人の手帳やメモ、銀行の取引履歴といった証拠を集めて証明できそうかを検討するしかありません。
 
ひとつひとつの証拠が弱くても、複数の証拠を合わせることで強力な証拠になりうることもあります。
 
たとえば手帳に書いてある内容と出金履歴が一致している場合は、かなり有力な証拠といえるでしょう。
 
ただ、実際には本人のメモだけが残っているなど微妙な証拠が残っている場合が問題になることも多いです。
この場合それだけで特別受益の存在を証明するのは難しい可能性もありますので、まずはご相談いただければと思います。
 

まずは財産調査から

特別受益があったかどうかの証拠集めにあたっては、まずは故人のお金の動きを丁寧に追って、何か怪しい履歴がないかどうかを調べることが大切です。
 
不自然に多額の出金があった場合、「誰かに貸したか、あげたか」と推測できます。
特別受益にあたる贈与があったかどうかまでは判断できないにせよ、「何か、おかしなことがあったのだろう」という前提で、話を進めることが可能です。
 
特別受益に限らず、相続に際して「おかしいな」と思うことがあったら、まずはお金の動きを追ってみるとよいと思います。
 
相続の手続きでは遺産の内容を把握する必要がありますから、相続人であれば故人の口座の取引履歴を調べることは可能です。
 
他の相続人の口座までは調べられないにせよ、取引履歴をもとに故人の口座内のお金の動きを追っていくだけでもいろいろなことがわかります。
 
これら膨大な取引履歴のどこに目をつけて調べていくかというのが、弁護士としての腕の見せどころと言ってもいいかもしれません。
 
特別受益をめぐっては、遺産の調査も含めて相続の手続きが複雑になる傾向があります。
もし不安なこと、気になることがありましたら、一度弁護士にご相談いただければ幸いです。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。