土曜・夜間も相談対応

TEL 050-3628-2026電話受付時間 平日 09:00~20:00
土日祝 09:00~20:00

行き過ぎた節税対策で問題が起きることも!?知っておきたい相続税対策のポイント

相続税対策とリスク管理

生前対策を考えられる方の中には、相続税対策についても関心を持たれる方も少なからずいらっしゃいます。
実際に弁護士も相談を受けることはあるのですが、ここで、ひとつ知っておいていただきたいことがあります。
 
それは、相続税対策についてはリスクの高い「攻めの相続対策」と比較的安全だといわれている「守りの相続対策」があるということです。
 
令和3年4月19日、マンションを使った相続税対策である「マンション節税」に関して注目すべき最高裁判決が出されました。
今回はこの最高裁の判断も踏まえつつ、改めて法律的にリスクが少ないと思われる相続税対策について考えてみたいと思います。
 

行き過ぎたマンション節税が問題に~令和3年4月19日最高裁判所第三小法廷判決について

令和3年4月19日、最高裁第三小法廷で出された判決(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/105/091105_hanrei.pdf)は、不動産業者、金融機関といったこれまで不動産を利用した相続税対策に関わってきた方たちにとってはインパクトの大きいものでした。
 
というのも、これまでよく富裕層の間で使われてきた「マンション節税」のやり方について、大きな方向転換を迫られる可能性もある判決だったからです。
 

なぜ問題になったのか~不動産の評価額を利用したマンション節税とは

ここでいったん事件の概要を整理してみましょう。
 
この事件は簡単に言ってしまうと、相続人側が主張した相続財産の一部であるマンションの評価額やそれをもとにした相続税額について、税務署側が異を唱えてトラブルになったというものです。
 
なぜこんなことになってしまったのか。
その秘密は、相続税の計算のベースとなる不動産の評価額の算出方法にあります。
 
相続時における不動産(土地)の評価額は一般的には路線価方式で算出されます。
これは、毎年7月に発表される路線価を用いて、土地の価値を計算するもので、実際の土地の評価額(実際に売買された時の価格)より低めの見積もりとなります。
つまり、現金で5000万円持っている場合より、5000万円相当の土地を持っている場合のほうが相続税が安くなるということです(なお、建物については固定資産税評価額が相続税の計算のベースとなります)。
 
また投資目的で賃貸マンションを保有していた場合は、所有者自身が自由に土地や建物を使えなくなる分、さらに相続税評価額が低くなります。
 
以上のような理由から、賃貸マンションの大家さんになっていた場合、マンション分の相続税がぐんと低く押さえられる可能性があるのです。
 
その上、不動産を購入するために銀行から借金をしていた場合は、借金がある分、遺産の総額がゼロ、マイナスに近づきます。
そのため、相続税がゼロになるということも……。
 
特に都会の利便性の高い土地にあるマンションの場合、実際の不動産評価額と、相続税課税時の評価額と大きくズレる傾向が見られます。
 
つまり、相続税を圧縮しつつ、子どもや孫に財産を残すことができる可能性が高いということです。
そのため、これまでは「現金で持っているより不動産で持っていたほうがお得じゃないか」ということで、不動産業者や金融機関、税理士が資産家向けの相続税対策としてマンション・アパートの購入をおすすめするケースがかなりあったようです。
 

最高裁裁判所の判断と今後への影響

事件の事実関係について、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。
 
長年不動産事業を営んできた被相続人Aさん(当時90歳)は平成21年1月に都内のマンションを、91歳になった後の12月に都内に別のマンションを合計約14億円で購入しました。
なお、この際Aさんは金融機関などから数億円規模の借り入れを行っています。
 
その後Aさんは平成24年6月17日に亡くなりました。
相続人であるXさんたちは、路線価などをもとにマンションの相続財産評価額を合計3億3300円として相続税額を計算します。
そうして算出された、その他の財産と合わせた課税評価額は約2826万円。
基礎控除額の範囲内ということで、「相続税は0円である」という内容で申告を行いました。
 
これに驚いたのは税務署です。
路線価方式などで評価することが「著しく不適当と認められる財産の価額」については国税庁長官の判断で評価をやり直せる、という内容の通達(財産評価通達6)を根拠に、マンションの評価額の計算を不動産鑑定評価額をもとにやり直し、マンションの評価額は合計約12億7000万円であると評価。
他の相続財産と合わせた相続財産評価額は約9億円であるとして、相続人に相続税の支払いを求めました。
 
結論からいうと、裁判所は一審の東京地裁から一貫して、「国税庁側が評価をやり直したことは正当である」として国税庁側の言い分を認めてきました。
 
控訴審の判決文を読むと、相続開始前のわずか3年間に高額の不動産を買って結果的に6億円超の相続税の支払いを免れたという事実や、路線価方式などで求めた評価額と鑑定評価額があまりにも食い違っているという事実が、裁判所の判断に影響したことがわかります。
 
また、弁護士の個人的な想像になりますが、本件では相続後にすぐにマンションの一方を売却しており、それも相続人であるXさんたちにとってはマイナスの事情として働いた可能性も否定できないと思います。
 
今回の判決は、相続開始直前に高額な不動産の購入を行うといった、行き過ぎた相続税対策に対する警鐘を鳴らしたものといえます。
業界関係者にもそれなりに影響があるのではないでしょうか。
 

相続税対策のトラブルを避けるためには?

今回は相続開始前の直近3年間に不動産を相次いで購入した、という事情があり、かなり特殊なケースだと考えられます。
 
そのため、他の事件についても今回の判例の射程が及ぶかどうかは未知数です。
 
ただ、相続税対策もやりすぎると危険ということは間違いなくいえるのではないでしょうか。
 
冒頭で申し上げたように、相続税対策にはリスクの大きいものと、そうでないものがあります。
 
なかには多少リスクを犯しても劇的な節税効果が期待できる方法を選びたいという方もいるかもしれませんが、「トラブルを避ける」という観点から考えると、多少時間やお金がかかってもリスクの低い方法を選ぶのが無難なのではないかと思います。
 
トラブルになりにくい相続税対策のポイントは、10年、20年といった長いスパンでゆるやかに、安定的に取り組むことです。
 
たとえば、相続税対策として「銀行からお金を借り入れて不動産を購入するケース」にしても、もともと持っていた土地にマンションを建てて安定的にマンション経営をする場合とか、相続の10年前に不動産を買って持っている場合といった事情があるのであれば、外部の人間が見てもそこまで不自然な印象にはなりません。
 
一方、短期間で不動産を売買するなど、第三者から見た時に疑われるようなことをしてしまうと、やはり後で税金関係のトラブルに巻き込まれるリスクは高くなるであろうと思います。
 

相続税対策と法的問題

その他、ゆるやかな相続税対策としては、年間110万円の非課税枠を利用した暦年贈与があります。
1回に贈与できる金額は少なくても、受け取る人が多ければそれなりの節税効果が期待できる方法です。
 
また、相続税と贈与税の税率を比べて、相続税のほうが高くなるようなら、贈与税を払ってでもまとまった金額の財産を生前贈与するという方法もあります。
 
もっとも相続税対策については税金関連のトラブルとは別に、特別受益などの法的な問題が発生することもあります。
相続税対策が原因で相続トラブルになるというリスクもないわけではありません。
もし、これから生前対策を始めようという方がおられましたら、一度弁護士にご相談いただければと思います。
 
参考URL:
約14億の不動産の相続税がゼロ円? “マンション節税”と“税務署”のバトルの勝敗 | 文春オンライン (bunshun.jp)

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。