相続コラム
家族信託のメリット
認知症への備えとして、家族信託の利用を検討する人が増えています。認知症を発症した後に財産の管理を家族に任せられるのは安心感がありますね。今回は、家族信託を利用する前に知っておくべきメリットとデメリットも併せて紹介します。
家族信託のメリット
家族内で委託者から受託者に財産が信託され、受託者は委託内容に従ってその財産を管理・運用・処分します。一般的には親が委託者で、子が受託者と考えるとわかりやすいかもしれません。家族信託は、任意後見制度と比較して財産の管理に重点をおいた制度となります。
①親が認知症になっても子が財産管理できる
認知症を発症すると、意思能力が失われてしまい、御自身の財産を御自身で管理・運用することは非常に難しくなります。そこで、受託者である子に財産の管理を委託すれば財産が守られますので、「認知症になって口座からお金を引き出せなくなった」といった事態を避けることができます。
委託者が預金の引き出しや定期預金の解約といった財産の管理ができなくなった時、受託者が委託者に代わってこうした手続きができるようになります。
②任意後見制度より財産の管理が容易である
任意後見人は、家庭裁判所の監督を受けますので、資産運用や相続税対策など、本人のメリットになるはずの財産の増殖・処分はできません。任意後見人はあくまでも被後見人の財産の維持を目的とするものであるとも言えるでしょう。
しかし、家族信託は信託された財産の運用、管理を受託者に任せられるので、財産の増殖や処分なども受託者の裁量により柔軟に決定できます。
③遺産の受贈者を何段階も指定できる
遺言とは異なり、家族信託は2代目、3代目と後継者を指定できます。事業を経営している人や家賃収入を得ている人には大きなメリットでしょう。家族信託の契約から30年以内なら、何代先でも承継する人を指定できます。ただし、30年を経過するとその後の代替わりについては1代限りしか指定できません。
④遺言書としての機能もある
家族信託は遺言としての機能も兼ね備えています。というのも、家族信託で委託者が受託者に対し信託する財産を指定することで、遺言行為を生前に行ったことと同様の効果があり、相続人同士の争いを防ぐことにもなります。
⑤倒産隔離機能がある
信託財産については、受託者の債権者による強制執行が禁じられており(信託法23条)、受託者が破産しても破産手続の対象にはなりませんので(信託法25条)、受託者である子が多額の債務を負ったりしても、信託財産はその影響を受けません。また、信託財産は委託者の固有財産から離脱しますので、委託者が多額の債務を負ったりしても、信託財産はその影響を受けません。これらは「倒産隔離機能」と呼ばれています。このように、信託財産は保護されていますので安心して財産を信託できます。
⑥コストを抑えられる
任意後見制度では、成年後見人に報酬を支払う必要があります。また、金融機関に財産を信託する場合、高額な信託報酬が発生します。
これらに対して、家族信託は家族間の契約なので、報酬は家族間で話し合って柔軟に取り決めることができます。受託者が納得すればもちろん無料で信託することも可能であり、この場合にはランニングコストがかからず、気軽に始めやすいと言えます。
家族信託のデメリット
メリットが非常に大きい家族信託ですが、デメリットも少なからずあります。任意後見制度と比較すると、家族信託は決して万全な制度ではないことを覚えておきましょう。
①詳しい専門家が少ない
家族信託自体が比較的新しい制度のため、詳しい専門家が多くないのが現実です。相続に詳しい弁護士や家族信託を取り扱う金融機関など、信頼できる専門家を探すのが難しいかもしれません。
②受託者の使い込みが心配
信頼できる家族に受託することが大前提ですが、受託した家族が財産を使い込む可能性を否定することはできませんので、信託管理人や信託監督人を設置しておくという方法もあります。また、受託者は委託された財産を自身の裁量で自由に管理・運用していいので、信託内容に沿った投資で大きな損失が出たからといって、損害賠償を請求することはできません。
③高齢の祖父母や両親の理解が得られにくい
家族信託は認知症対策として利用するケースが多いのですが、高齢者が自身の財産を他人に託すことに抵抗を感じることも少なくありません。認知症を疑われているようで不快に思い、ますます理解が得られない可能性もあります。
④身上監護権がない
家族信託は成年後見人制度とは異なり、受託者に身上監護権がありません。例えば、認知症を発症している人の生活環境の整備、介護契約、施設等の入退所の契約、治療や入院等の手続などです。こうした身上監護権を担保したい場合には成年後見制度の利用も検討するといいかもしれません。
家族信託をご検討の方は弁護士にご相談を
家族信託のメリットとデメリットについてご紹介しました。
家族信託を利用する場合、委託者と受託者との間に信託契約を締結しなければなりません。今後、家族信託の利用を検討しているという方や、家族信託の手続きが煩雑だと感じる方は、相続に詳しい弁護士にご相談いただければ、適切な運用方法についてアドバイスができます。お気軽にご相談ください。