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特別方式遺言の種類について

遺言には「普通方式遺言」と「特別方式遺言」の2種類があることをご存じでしょうか。自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言など、平時の状態で作成する遺言は「普通方式遺言」といいます。普通方式遺言を作成できないケースでは「特別方式遺言」を作成します。「特別」の文字からもわかるとおり、特別方式遺言はかなり特殊な状況下で作成されるものです。

ここでは、特別方式遺言の種類や有効な遺言として成立するための要件について詳しくご紹介します。
 

特別方式遺言は全部で4種類

特殊な状況下ですので、特別方式遺言は普通方式遺言よりも要件が緩和されています。また、遺言者が普通の方式で遺言書を作成できるようになった時から6か月間生存していれば、その特別方式遺言は無効となります。普通方式遺言ができるのであれば普通方式遺言をすればよいという考え方です。

また、特別方式遺言は状況に応じて4種類に分けられています。
 

危急時遺言

病気やその他の事由により命の危険が差し迫っているとき、普通方式遺言の作成が困難な場合に危急時遺言で遺言を作成します(民法976条)。
 

①一般危急時遺言

一般危急時遺言を作成する場合、次の要件を満たす必要があります(民法976条1項)。

  • (1)証人3人以上の立ち会い
  • (2)そのうちの1人に「遺言の趣旨」を口授
  • (3)口授を受けた者がこれを筆記して遺言者および証人に読み聞かせるか、または閲覧させる
  • (4)各証人がその筆記の正確なことを承認した後にこれに署名・押印する

一般危急時遺言は、遺言された日を証人と立会人によって証明するできることから、日付の記載はなくても有効とされています。
 

②船舶遭難者遺言

船舶や飛行機に搭乗しているときに遭難あるいは事故などにより、命の危険が差し迫っている場合に作成する遺言書です。「難船危急時遺言」とも呼ばれます。船舶遭難者遺言は、遺言者本人だけでなく証人となる人にも命の危険が迫っていることが考えられるため、一般危急時遺言よりも要件がかなり緩和されています。

  • (1)証人2人以上の立ち会い(民法979条1項)
  • (2)証人1人がその趣旨を筆記して、これに署名・押印する(民法979条3項)

 

危急時遺言における「確認」手続きについて

上記危急時遺言には、遺言者の真意であるかどうかを判断する家庭裁判所の「確認」の手続きは必要となります。船舶遭難者遺言には確認の期限がないのに対し、一般危急時遺言は作成から20日以内に証人の一人または利害関係人(相続人、遺言執行者など)が家庭裁判所に確認の請求をしなければなりません。

これは、死亡の危急が迫った人に対し、一部の相続人や利害関係人が、遺言者の真意に基づかない危急時遺言をさせる弊害を避けるために設けられたものです。

なお、確認の手続きをしたからといって有効な遺言と認められるものではない点に注意が必要です。家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に沿ったものであるかどうかを判断する程度であり、遺言書の効力を争う場合には別途民事訴訟において遺言書が有効か無効かが判断されます。無効になる可能性がある点にも注意しましょう。
 

隔絶地遺言

隔絶地遺言は、伝染病や交通手段の絶たれた人が作成する遺言書です。裁判所による確認手続きは不要となります。
 

①伝染病隔離者遺言

伝染病に感染した人など、普通方式遺言の作成が困難な場合に作成されるものです(民法977条)。「伝染病」とありますが、それ以外にも行政処分を受けて交通手段を絶たれた場所にいる場合もこの方式で遺言作成できます。

(1)警察官1人および証人1人以上の立ち会い
 

②船舶隔絶地遺言

船舶隔絶地遺言は、長期間航海に出ていて陸地に戻ることができない場合に作成されます(民法978条)。先述した船舶遭難者遺言とは違い、遭難や生命の危機が迫っているものではなく、あくまで一般の交通手段が遮断されたケースを想定しています。

(1)船長または事務員1人および証人2人以上の立ち会い
 

まとめ

特別方式遺言は、いずれもかなり特殊な状況下で作成されることがおわかりいただけたと思います。

特に、船舶遭難者遺言や船舶隔絶地遺言の場合、法律上有効な遺言書が確実に作成できるとは限りません。証人の人数の不足、あるいは証人にも生命の危機が迫っている可能性も考えられ、遺言内容を筆記できる事態ではないおそれもあります。また、船舶遭難者遺言は、遺言が作成できたとしても遭難してしまい遺言書が陸地に届かないことも考えられます。

こうした特別方式遺言を急遽作成する必要のないよう、平時に普通方式遺言を作成することが大切です。普通方式遺言なら遺言内容をあらかじめ決めておける上、作成にあたっては遺言に詳しい専門家に相談しながら進めていくこともできます。

それでも特別遺言方式に頼らざるを得ない状況が発生した場合に備え、法的に有効な特別遺言方式があることを覚えておくとよいでしょう。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。