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愛人への遺言

家庭の外で恋愛関係に進展し、愛人ができた……。このような状況で相続が起きた場合、大きなトラブルに発展する可能性があります。特に「愛人に財産を残したい」という希望を生前の本人が持っていたケースでは、残された家族としては戸惑う結果となることは必定でしょう。このコラムでは、愛人に遺言で財産を残せるのか、さらに、愛人に遺産をあげた場合にどんなトラブルが起きるリスクがあるのかについて解説します。
 

相続人になれる人・なれない人

愛人に遺言を残すことができるかどうかを考える前に、まず相続人になれる人の条件について簡単に確認しておきましょう。
日本の民法では、相続人になれる人は被相続人と一定の関係にある親族に限定されています。
たとえば配偶者と子どもがいる人であれば、配偶者と子どもが相続人です。ここで注意しなければならないのは、ここでいう配偶者が「法律婚をしている」配偶者のみだということです。内縁上の妻のような事実婚の配偶者が相続することはできません。
したがって、浮気相手と長年同居し、実質上は夫婦同然といった関係ができあがっている場合でも、愛人が相続人になることはありません。
なお愛人との間に認知した子ども(非嫡出子)がいる場合は、法律婚の配偶者との間で生まれた子ども(嫡出子)と同じ割合で遺産を相続することができます。
 

愛人への遺贈はできる

もっとも愛人への相続が認められないといっても、遺言によって遺産をあげること自体は可能です。
民法では、遺言によって遺産をあげる「遺贈」と呼ばれる制度をもうけています(民法964条)。このとき遺贈を受ける人を受遺者といいますが、この受遺者には相続人はもちろん相続人以外の人を指定することが可能です。
したがって、愛人に対して遺贈する旨の遺言があり、遺言として有効であれば、愛人に遺産をあげることができます。
 

愛人への遺言が問題になる場合

もっとも愛人への遺言は被相続人の家族の反発を招きやすく、相続トラブルの火種となりやすいものです。
特に問題が起きやすいケースとしては、次のようなものが考えられます。
 

遺言が作成されたプロセスに不審な点がある場合

遺言は、被相続人の意思を遺産の処分に反映させるものです。したがって、遺言は本人の意思にもとづいて行われる必要があります。
遺言が偽造・変造された場合、遺言自体が無効です。
また認知症などで判断力が極度に低下(意思無能力)している状態で作成された遺言は無効であり、詐欺や強迫を受けて本人が作成した遺言は取り消すことができます。
 

遺言の内容が遺留分を侵害する場合

遺言の内容が遺留分を侵害する場合も問題になりやすいケースといえます。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められた「最低限の遺産を受け取る権利」のことです。
遺留分を侵害するような遺言も遺言としては有効ですが(民法964条)、この場合遺留分を侵害された側としては納得がいかないと思います。こうしたケースでは遺留分を侵害している相続人や受遺者に対して、遺留分侵害額請求を行って遺留分相当額の金銭の支払いを求めることになります(民法1046条1項)。
 

愛人への遺言をめぐってトラブルになりそうになったら

愛人への遺言自体は認められます。上記では主に遺贈の話題を取り上げましたが、遺言によって愛人との間にできた子どもを認知することも可能です。
一方、愛人への遺言がトラブルの火種になりやすいものであることは間違いありません。トラブルをできるだけ回避するのか、あるいは、できるかぎり多くの遺産を愛人に残すのか、という方針の違いによっても、取りうる選択肢は大きく異なってきます。生前にできる方策としては遺言のほかにも贈与や不動産取引など様々な方策があります。
また、故人の残された遺言の内容を見てびっくりされた方も真剣に悩まれていることと思います。
遺言に関する困ったこと・不安なことがあったり、生前対策に興味があるようでしたら、一度お気軽にご相談いただければ幸いです。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。