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譲渡は特別受益にあたるか

相続人となった人は自分の相続分を誰かにあげることができます。しかし、相続人の間で相続分の譲渡を行った場合、後で遺留分や特別受益が問題になる可能性があります。特定の人の相続分を増やす目的で譲渡を行う場合は注意が必要かもしれません。
 

そもそも特別受益とは

特別受益とは、相続人同士の公平をはかるために設けられた制度です。
特定の相続人に対して遺贈や多額の生前贈与が行われた場合、そのまま法定相続分や遺言にしたがって遺産をわけるとその結果が不公平になってしまいます。
そこで、民法では遺贈などを「特別受益」として扱い、その分の金額を考慮して、実際の相続分や遺留分を算定することを認めたのです。
 

特別受益にあたるもの

特別受益にあたるものとしては、遺贈、そして「結婚若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」として受けた生前贈与があります。
このうち、遺贈は遺言によって行われた贈与のことです。相続人に対して行われた遺贈はすべて特別受益として扱われます。
また「結婚若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」として受けた生前贈与の場合、遺留分の計算においては相続開始10年以内に行われた贈与が、相続分の計算においてはすべての贈与が特別受益として扱われます。
さらに近年問題になったものとして、共同相続人の間で行われた「相続分の譲渡」があります。
こちらは最高裁の判例があるため、詳しくは判例の解説を通じて紹介したいと思います。
 

相続分の譲渡も特別受益にあたる〜最高裁平成30年10月19日判決から

平成30年10月19日判決で、最高裁は「相続人の間で行われた相続分の譲渡も特別受益にあたる」という判断を示しました。
 

前提〜相続分の譲渡について

相続分の譲渡とは、相続発生後・遺産分割前に相続人が自分の相続分を他の人にあげることです。
相続が起きたときに「自分の相続分はいらない」と言うための手段としては,相続放棄や相続分の放棄もあります。
相続分の譲渡と相続放棄や相続分の放棄との大きな違いは、「相続をしない」ことを決めて手続をした後の扱いです。
相続放棄をした人は最初から相続人ではなかったものとして扱われ、相続分の放棄をした人の相続分は残った相続人の相続分に応じて配分されるため、いずれの場合も他の相続人だけで遺産を分け合うことになります。なお、相続分の放棄と相続放棄との違いは、相続放棄の場合には相続人としての地位を失って相続債務も負担しないのに対して、相続分の放棄の場合には相続人としての地位は失わず相続債務も負担することです。

一方、相続人の譲渡では特定の人に相続分をあげることになるため、1人の相続人に財産を集中させることも可能になります。
「自分は相続人としての地位はいらないが、仲の悪い兄弟の取り分が多くなるのは困る」「介護に貢献した兄弟に自分の相続分をあげて、最終的な取り分を多くしてあげたい」といった場合には、相続人の間で相続分の譲渡を行う実益があります。
そして、最高裁判決の対象となった事件は、相続人の間で行われた相続分の譲渡が問題になった事案でした。
 

事案の概要

B、Bの妻A、その子どもC・D・E・F(EはDの妻でA・Bと養子縁組をした養子)がいる家庭で、Bの死後に行われた相続分の譲渡と遺留分の侵害が問題になった事案です。
まず平成20年にBが亡くなり、残されたAと子どもたちがその相続人となりました。このときA・Eは自分の相続分をDに譲渡し、遺産分割調停手続きから離脱しました。さらに、AはDに自分の財産を全額Dに相続させる旨の公正証書遺言も作成しました。
その後、C・D・Fの間で遺産分割が行われ、Bの遺産に関する遺産分割手続きは終わりました。しかし、今度は平成26年にAが亡くなり、もう一度相続が発生します。このときAの資産はほとんど残っていませんでした。
そこで、Cは「Bの相続で得た財産の一部を遺留分として、こちらに寄越せ」と主張し、Dを訴えました。
 

裁判所の判断

Bの相続時にA・D間で行われた相続分の譲渡が特別受益にあたるのであれば、その分の金額を考慮してAの相続を行わなければいけないことになります。譲渡した相続分にあたる金額がAの遺産としてカウントされ、その金額は遺留分の計算にも反映されるからです。
そこで、上記の相続分の譲渡が特別受益にあたるかどうかが争点になりました。
原審(高裁判決)では、相続分の譲渡は特別受益にあたらないと判断しました。
しかし、最高裁はこの原審の判断を覆し、「共同相続人間においてされた無償の相続分の譲渡は、当該相続分に財産的な価値があるとはいえない場合をのぞき、譲渡をした人の相続にあたっては特別受益の対象となる」として審理を原審に差し戻しました。
 

相続分の譲渡や特別受益をめぐるトラブルは弁護士に相談を

相続人間で行われる相続分の譲渡は、特別受益や遺留分と関係して問題になる可能性がありますので、それらを見越して対策を検討する必要があります。また、特別受益や遺留分の争いが生じて、一度話がこじれてしまうと解決が難しくなるおそれもありますので、トラブルが起きそうになった時点で早めに専門家に相談してみるのもよいかもしれません。
もし相続をめぐって不安なこと、困っていることがありましたら、一度お気軽にご相談いただければと思います。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。