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最新判例解説

遺言書に記載された日付と実際の作成日がズレている場合の遺言は無効?0最新判例(令和3年1月18日判決)を読む
有効な遺言書を作成するためには、遺言を作成した日付を正確に記入する必要があります。遺言書に記載された遺言の作成日と、実際の作成日が異なる遺言書は原則として無効です。遺言には厳格な方式が定められているため、作成ルールから外れた遺言は原則として無効にせざるをえません。もっとも、実際の作成日と遺言書に記載された作成日が数日ズレてしまった、という場合についてはどうでしょうか。こうしたケースについてまで「実際の作成日が遺言の日付とズレているので遺言は無効です」と形式的に判断してしまうと、遺言をした本人の意思からはかけ離れてしまうように思います。実は、最近この点に関して最高裁の新しい判例が出ました。今後、実務にも影響を与える可能性がありますので、以下簡単にご紹介します。
 

自筆証書遺言を作成する際のルール

判例の事案を読む前に、まず前提となる自筆証書遺言の作成ルールについて確認してみましょう。
自筆証書遺言は遺言をする本人が手書きで作る遺言書です。遺言書の本文を手書きして作成日を記入、さらに署名・押印して作成します。注意しなければならないのが、署名・押印までして初めて遺言書が完成するということです。つまり、署名・押印まで終わった日が遺言書の作成日であり、遺言書に記入する作成日もその日付を入れる必要があります。
そして、実際の作成日と遺言書記載の作成日が異なる場合、遺言は原則として無効です。
 

判例(令和3年1月18日判決)の事案

判例の事案も、まさに実際の遺言の作成日と遺言書記載の作成日が異なっているケースでした。そのため、遺言書の有効・無効をめぐって相続人間で争いが起きたのです。
平成27年4月13日、被相続人であるAさんは入院先の病院で、遺言の全文、その日の日付(4月13日)を記入し、署名しました。そして、退院して9日経った同年5月10日に遺言書に押印。その後、13日にAさんは亡くなりました。
 

原審の判断

原則論でいえば、本来遺言の作成日は押印が終わった日、すなわち5月10日になるはずです。したがって、遺言書に記載された日付が「4月13日」と実際の作成日と異なっている以上は、遺言そのものが無効になりそうにも思えます。
実際、原審である名古屋高等裁判所もそのように考え、「遺言は無効である」と判断しました。
 

最高裁の判断

ところが、最高裁は原審とはまったく異なる判断を示しました。本件のようなケースでは「ただちに遺言を無効と判断することはできない」と考えたのです。
その理由は、「遺言をした本人の意思を尊重するべき」という価値判断にあります。そもそも自筆証書遺言に厳格な作成ルールがもうけられたのは、遺言をした本人の希望を尊重する、という点にありました。したがって、必要以上に遺言の形式面にこだわりすぎると、かえって遺言をした本人の意思に反する結果を招くおそれがあるのではないか。そのように最高裁の裁判官たちは指摘したのです。
最高裁の判断の結果、本件の審理は名古屋高等裁判所に差し戻されることになりました。
 

まとめ

遺言の目的は、遺言を行う本人の意思を死後の遺産の配分などに反映させることにあります。したがって、「本人の本当の意思をなるべく尊重しよう」という最高裁の考え方は、ある意味自然な発想といえるかもしれません。
もっとも本人の本当の意思がどうであったかの判断というのは難しいものですし、そもそも遺された家族にとって遺言をめぐるトラブルは厄介なものです。
自筆証書遺言については、日付の記載ひとつ見てもわかるとおり、厳格な作成ルールが決められています。実際問題、形式面の不備が原因で遺言が無効になる、あるいは今回の事案のように遺言の有効・無効をめぐり長期間にわたって相続争いが続いたりするケースは珍しくありません。
こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、公正証書遺言を作成するなど、各家庭の事情に合わせた適切な生前対策を行うことが大切なのではないでしょうか。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。