相続コラム
遺言の代筆か可能か
遺言が有効か無効かの判断においては、「書いた本人が自分の意思で作成したかどうか」が重要です。本人の意思にもとづかない遺言は当然ながら無効です。それでは、本人の指示にしたがって第三者が代筆した場合はどうでしょうか。ここでは遺言の代筆が可能かどうかについて、遺言の種類ごとに解説します。
遺言の種類と代筆の可否
遺言の代筆が認められるかどうかは、遺言の種類によって決まります。
一般的によく利用される遺言には自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、そのうち自筆証書遺言は原則として遺言書の内容のすべてを本人が手書きする必要があるため、代筆は認められません。
他方、公正証書遺言の場合には、公証人が作成した証書に本人が署名しますので,遺言書の内容を本人が手書きする必要はありません。
自筆証書遺言は代筆もパソコンを使った作成も認められない
自筆証書遺言は、遺言をする本人が全文及び遺言の作成日を手書きし、自署・押印して作成する遺言です。財産目録以外の部分はすべて本人が手書きで作成する必要があり、他人の代筆は認められません。
さらに、他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言については,最高裁昭和62年10月8日民集41巻7号1471頁が次のように判示しています。
病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、
①遺言者が証書作成時に自書能力を有していること
②遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであること
③添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡のうえで判定できること
の3つの要件を充たす場合には、
「自書」の要件を充たし,遺言が有効である。
また,現在はパソコンやスマホで文書を作成する人も多いと思いますが、これらの電子機器で作成した遺言は本人の署名・押印があっても自筆証書遺言としては無効です。
したがって病気によってペンを持つことができないなどの事情がある場合には、自筆証書遺言ではない方法で遺言を作成する必要があります。
公正証書遺言なら本人が手書きする必要はない
公正証書遺言は、証人と公証人の関与のもとで作成される遺言です。
証人2名以上の立ち会いのもと、遺言をする本人が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝え、公証人がその内容を筆記する形で作成されます。
したがって公正証書遺言の場合は、そもそも本人が遺言書の内容を手書きする必要はありません。ただし,原則として,本人が署名する必要があります。もしも本人が署名できないという場合には,本人が署名せずに公正証書遺言を作成できる方法もありますので,予め公証人や弁護士に御相談ください。
(公正証書遺言)
第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 (略)
二 (略)
三 (略)
四 (略)ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
また、公正証書遺言には厳格な手続きを経て作成されること、公証人が作成に関わることから、有効な遺言を残せる可能性が高いというメリットもあります。
入院などの理由により本人が公証役場に行けないケースでは、公証人に出張してもらうことも可能ですので、本人が手書きで遺言を作れないときは公正証書遺言を利用することをオススメします。
多少の費用はかかるというデメリットはあるものの、後に遺言の有効性をめぐるトラブルが起きにくいというのは大きなメリットです。
遺言の代筆がバレるとどうなる?
遺言の作成方法や形式は厳格に定められており、これらに違反する遺言は無効です。したがって自筆証書遺言の代筆がバレた場合、遺言そのものが無効になります。
また遺言の偽造に該当する可能性もあり,遺言を偽造した場合には,相続人としての地位を失うことになります。
(相続人の欠格事由)
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 (略)
二 (略)
三 (略)
四 (略)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
遺言に関する悩みは弁護士に相談を
遺言の書き方にはルールがあり、ルールに違反してしまうと遺言そのものが無効になってしまいます。また遺言が「本当に本人の意思で書かれたのか」をめぐって、争いが起きる原因にもなりかねません。
これらのトラブルを防ぐためには公正証書遺言で遺言を作成するのがよいのですが、本当の意味で「モメない」遺言を作るためには形式面の配慮だけでは足りません。内容面についても考える必要があります。そして、トラブルの起きにくい内容の遺言書を作るためには法的な知識が不可欠です。
遺言の書き方について心配なこと、不安なことがありましたら、一度ご相談いただければと思います。