相続コラム
自筆証書遺言の保管制度について
相続法の改正に伴い、相続の分野でいくつか新しい制度が導入されました。
その1つが、自筆証書遺言の保管制度です。
自筆証書遺言のリスク
自筆証書遺言は遺言者本人が手書きで作成する遺言書です。
今回の相続法改正があるまでは自分で遺言書を保管する必要があったため、せっかく遺言書を作成しても紛失してしまったり、特定の相続人に変造されたりするリスクがありました。
今回、新たに始まった遺言の保管制度により、これらの不都合が改善されるのではないかと期待されています。
自筆証書遺言の保管制度とは
遺言書を遺言保管所として指定された法務局で預かってもらえる制度です。
遺言書を法務局で預かってもらうことで、自筆証書遺言にありがちな偽造・変造、紛失といったリスクを減らすことができます。
また保管申請時には、遺言書の形式について簡単にチェックしてもらえるのもメリットです。
さらに、保管してもらった遺言書については家庭裁判所の検認が不要になるため、相続発生後の手間も減らせる可能性があります。
手続きの概要
それでは実際に遺言書を法務局に預けるためには、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
以下、手続きの概要を簡単に紹介します。
手続きできる場所
まず手続きができるのは、法務大臣が遺言保管所に指定した法務局です。
しかも遺言保管所になっている法務局ならどこでもよいというわけではなく、遺言者の住所・本籍地あるいは遺言者が所有する不動産の住所を担当している法務局で手続きを行う必要があります。
これから手続きを行う予定のある方はご注意ください。
手続きの流れ
遺言を保管するための申請は、遺言をする本人(遺言者)が行う必要があります。
弁護士含め代理人による申請は認められていませんので、必ず自分で法務局に行くようにしましょう。
手続きに必要なもの
また、手続きに必要なものとしては次のようなものがあります。
- ・遺言書の保管申請書
- ・遺言書(封をしていないもの)
- ・収入印紙(保管手数料)
実際の手続きでは、遺言書の保管申請書に生年月日、住所などの必要事項を記入し、封をしていない状態の遺言書および保管手数料分の収入印紙を添えて申請を行うことになります。
遺言の内容を確認する方法
それでは、一度法務局に預けた遺言を確認したい場合はどうすればよいのでしょうか。
相続発生前と発生後に分けて解説します。
相続発生前
遺言をした本人は遺言書保管所で内容の確認ができます。
そのほかの人は、相続が起きるまでは遺言書を見ることはできません。
相続発生後
一方、相続発生後については、遺言者本人以外の人も遺言書の存在等を確認できるようになります。
まず相続人、受遺者、遺言執行者といった人々は、法務局で遺言書情報証明書の交付請求をしたり、遺言の原本を閲覧させてもらったりすることで遺言の内容を確認できます。
これらの請求は遺言を保管していない法務局に対して行うことが可能です。
また、遺言書情報証明書の交付請求等があった場合、遺言書保管所から相続人などの関係者に通知が行われます。
そのため一度請求等が行われれば、交付請求をしていない関係者も遺言の存在などを知ることが可能です。
なお、遺言書の有無などを確認できる遺言書保管事実証明書の交付請求については誰でも行うことができます。
遺言書保管制度の落とし穴・注意点
メリットも多いと考えられる遺言書保管制度ですが、まったく注意点がないわけではありません。
なかでも注意しなければならないのが、申請時に「遺言書の有効性は保証してくれないし、中身のチェックもしてくれない」という点です。
まず遺言書には厳格な様式が定められているため、形式面で不備があると遺言書そのものが無効になってしまいます。
法務局では保管時に一応形式面のチェックはしてくれますが、遺言の有効性までは保証してくれません。
さらに、たとえ遺言書としては有効なものであったとしても、極端に不平等な内容であるなど遺言の内容に問題がある可能性も考えられます。
このような場合、遺言の存在がかえって相続人間の争いを招くことにもなりかねません。
自筆証書遺言の作成および保管申請そのものは一人でもできる手続きですが、トラブル予防という意味では不十分な面もあります。
遺言書の作り方について気になる点があったときは、一度遺言の内容について専門家に相談してみるのもよいかもしれません。
その他相続や遺言について、何か不安なこと・わからないことがありましたら、どうか気軽にお話しいただければと思います。