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相続分の譲渡について

一般的な遺産相続では、法定相続分に従って遺産を分配していくことになりますが、ある相続人が相続する予定の遺産割合を、他の共同相続人に譲渡することもできます。また、共同相続人にではない第三者に対しても、遺産の相続分を譲渡することが可能であり、これを『相続分の譲渡』と呼んでいます。(民法第905条)
自身の相続分(プラスもマイナスの財産も対象)を受け取らないのであれば、相続放棄で良いのでは無いか?と、思われるかと思いますが、『相続分の譲渡』はすべての遺産を手放す相続放棄とは異なり、債務も譲渡することが可能です。
では、どういったシーンで相続分の譲渡が行われるのか、利用する際の注意点などをご紹介します。
 

相続分の譲渡で譲れる財産及び割合

被相続人から相続する財産には積極財産(金銭価値のあるもの)と消極財産(借金など)が含まれます。相続分の譲渡では、遺産に含まれていた『不動産』だけとか、『借金を除く資産』のみを譲渡するのではなく、積極財産と消極財産のすべてを譲渡するのが一般的です。
ただ、一部だけを譲渡することも可能で、譲渡するにあたって対価をもらう、もらわないも自由とされています。
 

共同相続人間で行われた無償による相続分の譲渡は贈与になる

共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
 

裁判年月日 平成30年10月19日 裁判所名 最高裁第二小法廷 裁判区分 判決
事件番号 平29(受)1735号
事件名 遺留分減殺請求事件

 
詳細は割愛しますが、法定相続分の割合が多い母が、子の1人に対して相続分の譲渡を行うという場合、その後の母の遺産相続で当時の相続分の譲渡が特別受益に当たるとして、他の子から遺留分減殺請求を受けることになった事例です。
思わぬ事態が生じるおそれがありますので、「相続分の譲渡」を行う際は、相続に詳しい弁護士に相談してから行うのが望ましいでしょう。
 

相続分の譲渡と相続放棄の違い

相続分の譲渡では、他の相続人や第三者に財産を譲りますが、相続分の譲渡を行なった本人が相続人であるという事実は残るのに対し、相続放棄は、相続権利をすべて放棄するため、本人は相続人では無くなるというのが大きな違いです。
ほかにもいくつか違いがありますので、簡単にご紹介します。
 

消極財産に対する扱いの違い

 

  • 相続分の譲渡の場合:相続人の地位は残るため、返還請求の義務は残る
  • 相続放棄の場合:相続人ではないので返還請求の義務は消える

 
被相続人に借金があった場合、消極財産を相続した相続人がその返済の義務を引き継ぐことになり、債権者からの返還請求には応じる必要があります。一方、相続放棄を行うと初めから相続人ではなくなるため、返還請求に応じる必要はありません。
 

譲渡する財産の相手を選べるか否か

相続放棄をした場合、放棄放棄をした人は最初から相続人でなくなります。例えば被相続人に配偶者と子供が2人いて、子1人が相続放棄をした場合、相続人は配偶者と子1人として扱われます。
これに対し相続分の譲渡では、相続財産の譲受人を指定して、特定の人に相続分を譲渡することができますので、相続権をだれに譲渡するのか、譲渡人の意思が反映できます。
 

相続分の譲渡を行なった際に起こりうること

遺産分割協議がスムーズになるケースがある

遺産を分ける際、遺産分割協議は原則相続人全員の参加が必要になります。特に相続財産が高額になったり、単純に分けるのが難しい不動産を相続したりするなら、誰が何を相続するのか、不動産の扱いはどうするのかなど、簡単に遺産分割協議がまとまらないことも考えられます。
この問題の一番の原因は、相続人が多すぎることによる会議の収拾がつかなくなることです。しかし、相続分の譲渡を行うことで会議に参加する相続人が減り、意思決定がスムーズになるメリットがあります。
 

譲請人に法定相続人以外の人間を指定するとややこしい

相続分の譲渡は相続人以外を指定することが可能なので、相続分を相続人とは関係のない第三者にも譲渡した場合は、遺産分割協議が難航することが考えられます。相続人同士の遺産分割すら揉めるケースがあるのに、家族・親族以外の第三者が登場することはデメリットにしかなりません。
 

相続人以外への譲渡は遺留分侵害請求の可能性も

相続人以外へ相続分の譲渡を行なった際、他の相続人から遺留分侵害請求がなされることも考えられます。遺留分とは、相続人が受け取れる最低限どの相続分を示したもので、下記のような割合が定められています。
 

相続人 全員の遺留分 相続人の遺留分
配偶者 子供 父母 兄弟
配偶者のみ 1/2 1/2 × × ×
配偶者と子供 1/2 1/4 1/4 × ×
配偶者と父母 1/2 2/6 × 1/6 ×
配偶者と兄弟 1/2 1/2 × × ×
子供のみ 1/2 × 1/2 × ×
父母のみ 1/3 × × 1/3 ×
兄弟のみ × × × × ×

 
この割合を大きく超えた財産を相続人以外の第三者に譲渡すると、ほかの相続人から財産を侵害されているとして、遺留分侵害請求をされる恐れもありますので、注意が必要でしょう。
 

相続分の譲渡を行う方法

 

  • 相続分譲渡届出書
  • 相続分譲渡証明書
  • 印鑑登録証明書

 
上記3つの書類を揃えて、裁判所に提出します。
裁判所に上記の書類が提出されると、裁判所は「排除決定」という決定をします。排除決定がされると、譲渡人は遺産分割手続の当事者ではなくなります。
提出書類のフォーマットは裁判所のHPから印刷できますが、下記にもご紹介します。
 

参考:裁判所
 

参考:裁判所

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。