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介護ホーム入居金返還金は遺産か

高齢者の中には老人ホームに入居したまま、生涯を終える方も多くみられます。
老人ホームの入居時、基本的に入居一時金を支払わなければなりません。
 
この入居一時金は途中で退居した場合、未償却分が返還される仕組みとなります。
被相続人が老人ホームで亡くなり退居となった場合も返還されますが、これは遺産に当てはまるのか判断に困る人も多いです。
 
今回は複雑な入居一時金の相続について解説していきましょう。

 

相続における返還された入居一時金の扱い

入居者本人が入居一時金を支払い、それが死亡時に返還された場合、相続遺産になると考える人は多いでしょう。
しかし、相続財産になるかどうかは、老人ホームの入居契約の解釈によって判断は分かれます。
老人ホームの入居契約書には、入居者が死亡した時に返還金を誰が受け取れるのか記載できます。
この時、事業者がどのように捉えているかによって、みなし贈与財産か相続財産か判断されるでしょう。

 

みなし贈与財産をして扱われるケース

例えば、入居者が死亡した時の返還金を受取人に帰属させるという意味で、解釈されればみなし贈与財産になる可能性があります。
入居契約自体は贈与契約ではありませんが、受取人に帰属させるという考え方は第三者のための契約と言えます。
つまり、入居者の死亡を条件に返還金の請求権を受取人が取得すれば、経済的な利益が発生したとみなされるわけです。
この場合、受取人にはみなし贈与課税が課せられます。
ただし、被相続人の相続で受取人が他の財産を引き継いだ場合、相続が開始される前3年内の贈与として相続財産に加算されます。
その場合は、相続税がかかります。

 

相続財産として扱われるケース

入居一時金は、入居契約が終了する時の原状回復や不当利得として返還されると解釈されることもあります。
この場合、死亡後の受取人が設定されていても本来の受取人は入居人という結論になります。
そのため、契約書に書かれた受取人はあくまでも親族の代表として、亡くなった入居者の代わりに返還金を預かったと解釈できます。
つまり、受取人の利益ではなく入居人本来の資金であるため、相続財産と扱われるわけです。
受取人が入居一時金の返還請求権を相続すれば、他の相続財産と同じく相続税が課せられます。

 

非課税になるケース

過去の判例では、老人ホームの入居一時金が非課税になるケースもありました。
例えば、高齢夫婦で妻が老人ホームに入居するとします。
その際、妻は入居一時金を支払う余裕がなかったので、被相続人となる夫が支払いました。
この場合、妻は贈与を受けたという解釈もできます。
しかし、支払った入居金は、本来だと自宅介護に伴う生活費の負担分に相当すると認められた場合、贈与ではなく生活費とみなされます。
そのため、被相続人が亡くなった後に妻が退居し、戻ってきた返還金は非課税となるわけです。
ただし、実際の判決では要介護の状態や配偶者の個人資産など色々な面から総合的に答えが出されるので、絶対に非課税になるとは断言できません。

 

高額な入居一時金は生活費にあたらない場合もある

老人ホームの中には高級に分類される施設もあります。
高級有料老人ホームは自立した高齢者も多く、設備が充実している分、入居金がとても高額です。
施設の中には1億円を超える入居一時金に支払いが必要な場合もあります。
過去の判例では、高額な入居一時金であったために生活費に該当せず、相続財産とみなされて相続税の課税が必要と判断されたケースがあります。
なお、相続税が課せられる判断となった要因は入居一時金の金額だけではありません。
他にも居住面積の広さや介護付き老人ホームでなかったこと、配偶者が要介護状態でなかったことなども考慮され、生活費とみなされませんでした。
この判例から、特に介護も必要なく高級老人ホームに被相続人のお金で入居した場合は、配偶者が退居時に受け取る還付金は相続財産とみなされる可能性が高いです。

 

老人ホームの入居金返還は複雑でトラブルになりやすい

老人ホームの入居一時金が遺産になるかどうかは、とても複雑な問題と言えます。
自分が受取人に選ばれた場合、そのお金は自分が受け取れるものと思い込む人は多いです。
しかし、相続財産とみなされる可能性があるので、孫など相続人にならない相手が受取人になってしまうと、後々トラブルに発展するおそれがあるでしょう。
トラブルを回避するためにも、受取人は配偶者や子どもなど相続人になる可能性がある相手を選んだ方が良いです。
また、返還されたお金を別の人に遺贈したり、団体・法人などに寄付したりといった意思があれば、相続財産の遺言とは別に遺言書を作成しておくと安心です。
 

まとめ

返還された入居一時金が遺産になるかならないかは、ケースバイケースです。
裁判所でも入居者死亡後の受取人の解釈で判断が変わるので、契約の際に事業者側の解釈を確認しておくと良いでしょう。
また、他の遺産と比べて複雑な問題なので、弁護士に相談してどう対応していけばいいのかアドバイスをもらうことをおすすめします。

この記事を監修した人

田阪 裕章

東大寺学園高等学校、京都大学法学部を卒業後、郵政省・総務省にて勤務、2008年弁護士登録。幅広い社会人経験を活かして、事件をいち早く解決します。
大阪市消費者保護審議会委員や大阪武道振興協会監事の経験もあります。