相続コラム
生命保険は遺産分割の対象ですか?
遺産相続において、故人が多額の生命保険をかけていたというるケースは意外と多いものです。
しかし、生命保険が遺産分割の対象になるのか、どうやって取り扱えばいいのか分からないという方は多いでしょう。
そこで今回は、生命保険が遺産分割の対象になるのかご紹介しつつ、相続トラブルに発展しないためのポイントをご紹介していきます。
生命保険は遺産分割の対象になるのか?
原則として、生命保険による保険金は相続財産には含まれません。
生命保険を契約する場合、被保険者(保険の対象者)と保険金の受取人を決める必要がありますが、生命保険は対象者の財産ではなく、受取人の財産と考えられます。
そのため、多額の生命保険金が下りても遺産分割の対象にはならず、全て受取人のものになるのです。
しかし、全てが受取人の財産になることから相続人同士で不公平が生じてしまい、相続トラブルに発展する場合が多く見られます。
例えば父が亡くなって長男・次男で遺産分割するために預貯金の200万円を公平に分割しました。
その後、父の生命保険金が約3000万円あることが発覚したとします。
元々生命保険金は母が受取人となっていましたが、既に母は亡くなっており長男に変更されていました。
この場合、生命保険金の受取人が長男に指定されているため、受取人に帰属する財産となります。
ただし、そうなると預貯金を公平に遺産分割したにも関わらず、長男だけが約3000万円の大金を受け取ることになるので、次男が納得できないのも当然です。
このように、生命保険は基本的に受取人の財産となりますが、一部例外もあります。
生命保険で遺産分割の対象となるケース
受取人が指定されておらず、「相続人」となっていた場合
生命保険金の受取人を指定するのは契約者本人ですが、受取人が指定されていなかった場合、受取人として契約者本人が指定されていた場合やただ「(法定)相続人」とだけ書かれていた場合には、各相続人が保険金を受け取る権利を相続できます。
一方、もしも契約者より受取人の方が先に亡くなってしまい、契約者も受取人の変更をしていなかった場合は、保険会社の約款の規定に従って受取人が決まってしまいます。
保険会社の約款において規定がなければ各相続人が法定相続分に応じて受け取ることもできますが、もしも約款で決められている場合は分割できなくなることもありますので注意しましょう。
生命保険金が特別受益に該当し、かなりの不公平が生じてしまった場合
上記のケースだと最終的に長男が3100万円、次男は100万円を取得することになります。
この結果は次男からするとかなり不公平に感じてしまうのではないでしょうか?
万が一相続人間にこうした大きな不公平が生じてしまった場合、受取金額を調整することを認める判決が最高裁判所で出ています。
この判決では、保険金の受取は生命保険金相当額の贈与(特別受益)とみなされており、取得可能な相続分を修正するとの考えを示しました。
特別受益に該当するケースは保険金額や遺産総額との比率、被相続人への介護などの貢献度合いや関係性、生活実態など、様々な面を総合的に配慮した結果認められたものなので、不公平があるからといって必ずしも特別受益によって相続分が修正されるとは限りません。
少しでも不公平をなくすために法律の専門家へ相談してみるのも良いでしょう。
生命保険が遺産分割の対象外であることのメリット
一見遺産分割の対象外であるというのはデメリットのように感じられるかもしれませんが、実際には遺産分割の対象外だからこそ得られるメリットもあります。
法定相続人以外に財産を残せる
例えば要介護状態にある自分を長男の嫁がずっと面倒見てくれて、長男・次男は一切関与しなかったとします。
できれば遺産は面倒を見てくれていた長男の嫁に渡したいと考えていても、法定相続人は長男と次男になるので長男の嫁は遺産を受け取れません。
このような場合、遺産分割の対象外である生命保険が役立ちます。
生命保険の受取人を長男の嫁に指定しておけば、法定相続とは別に処理されるため無事に長男の嫁へ財産を渡すことができるでしょう。
すぐに受け取れる
もう一つのメリットは、すぐに受け取れるという点です。
遺産分割に数ヶ月以上の時間と手間がかかるケースが多々あります。
相続人全員による話し合いを行い、合意を得てようやく遺産分割によって受け取れるようになるのです。
実際、銀行口座に預金が残されていた場合、遺産分割協議書が提出されるまでの間は、銀行預金の払戻しに応じてもらうことはできません。
預金口座に数千万円の財産が残されていたとしても、遺産分割の手続が済むまで受け取れなくなってしまうのです。
生命保険の場合、遺産分割の話し合いを必要とせず保険会社から受取人へ保険金が支払われます。
保険金の受け取りに必要な書類(死亡証明書や保険金支払い請求書、受取人の本人確認書類など)さえ提出すれば、早くて5営業日以内に受け取れるケースもあるのです。
受け取りまでの日数は、各保険会社によって異なります。
生命保険金は相続税の課税対象になるのか?
生命保険金は遺産分割の対象外となって相続財産として扱われませんが、相続税法に基づいて相続税の課税対象となっています。
ただし、生命保険金全額が課税対象になるわけではなく、一定額までは相続税の課税対象には入りません。
一定額の決まり方は、「500万円×法定相続人の数」で決まります。
上記のケースで考えてみると、法定相続人は長男と次男の2人だけなので500万円×2人=1000万円までが非課税対象です。
一方、残りの2000万円は課税対象となってしまうので注意しましょう。
まとめ
今回は生命保険が遺産分割の対象かどうかをご紹介してきました。
結論としては遺産分割の対象外ではあるものの、例外として遺産分割が必要な場合もあります。
生命保険は法定相続人以外を受取人に指定できるというメリットもあるため、できるだけ早期に生命保険の活用も検討されることをお勧めします。