相続コラム
空き家を相続したい人がいない
全国的に空き家が増加していますが、空き家の増加により災害時の被害拡大や治安の悪化に繋がるという問題を抱えています。国土交通省の平成26年空家実態調査では、空き家となった住宅の取得要因の56.4%は「相続して取得」となっているため、相続という突発的なイベントによって誰もが空き家を抱える可能性があると言えるでしょう。
では、そのような状況に直面した際に、どのような対応を取ればいいのかを解説します。
親が亡くなって、住居が相続財産となったものの住む予定がなく、処分したいという場合、二つの方法が考えられます。
■1:一度相続してから売却する方法
一つ目は、相続してしまってから売却するという方法です。後述しますが、もう一つの方法は煩雑な手続きが必要となるため、オーソドックスなこの手法はまず優先して考えるべき内容です。
ただし、誰もが取りうる手法であり、多くの人が売却という可能性を検討したうえで、上述のように相続した住宅が結果として空き家となっているという実情を踏まえると、本当に売却可能な物件かどうか慎重に検討してから取り組むべきといえます。
■2:相続放棄を行う
二つ目は、相続放棄をすることです。相続放棄は相続が開始されたことを知った日から3カ月以内に申請すると取ることができる手法で、借金などのマイナスの遺産も含めた一切の遺産を相続しなくてよくなるという手法です。
相続人の全員が相続放棄を行うと住宅の持ち主はいなくなり、民法239条2項「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」という定めの通り、国庫に帰属、つまり国が引き取ってくれることとなります。
■相続放棄をした場合のリスク
しかし、このようにスムーズに進のであれば、空き家がここまで大きな社会問題になるはずはありません。実態として、空き家となる可能性の高い不動産を国も引き取り続けるわけにはいかず、対応を検討しているものの、財務省が平成30年に出している報告書「引き取り手のない不動産への対応について」によると、やはり売却できる可能性の高い不動産を国が引き取っていこうという姿勢が垣間見えます。
では実態として相続放棄をすればどうなるのでしょうか。
◆次の管理人が決まるまでは責任放棄ができない
民法940条1項「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」とあります。
この規定により、相続放棄をしようとする人は次の住宅の管理人が決まるまでは責任をもってその住宅を管理しなければなりません。
◆手続きが煩雑で面倒
相続人全員が相続放棄をする場合は、相続人は家庭裁判所に申し出て、家庭裁判所が弁護士などを相続財産管理人として選任し、被相続財産の処分を進めることとなります。この手続きには予納金として数十万円の費用がかかるうえ、処分の難しい財産がある場合には相続財産管理人の選任に時間がかかる可能性もあります。
このように、空き家になる可能性の高い住宅が相続財産にある場合には、単純に相続放棄をすれば安心ということではありません。相続放棄から国庫帰属できるまでの手続きを見据えて、プランを検討すべきでしょう。
■空き家問題に悩む前に専門家に相談
国全体で空き家の増加が社会問題となるご時世において、相続時に「こうすれば問題解決」という教科書通りの手法はありません。できれば住宅の所有者が存命のうちに、遅くとも相続が発生して自身が相続人となっていることを知ってすぐに、各種手続きや地域の不動産事情に詳しい専門家に相談して進めるべき事項でしょう。
何の策もなく相続が進み、処分不能な住宅を抱えてしまう前に、解決の糸口を見つけられるよう、早期の準備を始めておきましょう。